UNISON SQUARE GARDENにしかないマジカルな力を浴びせられた『TOUR 2023 “Ninth Peel”』ツアー

ユニゾン『Ninth Peel』ツアーレポ

 UNISON SQUARE GARDENの全国ツアー『TOUR 2023 “Ninth Peel”』が終了した。9thアルバム『Ninth Peel』のレコ発ツアーにあたるが、年中ライブをしている彼らからすれば、「リリースしたからライブをやりましょう」というよりも「いつも通りライブをやっていたらこの時期にたまたま新譜がリリースされた」くらいの感覚だろう。新曲を聴かせることが最優先ではなく、過去曲とも組み合わせながら、一番いいライブを構築するのがユニゾンのスタイル。そのため、『Ninth Peel』に収録されているにもかかわらず今回のツアーで演奏されなかった曲もあったが、10月末からはツアー2周目の『TOUR 2023 “Ninth Peel” next』がスタート。「アルバム曲がセットリストに入りきらないならば、ツアーを2周まわればいいじゃない」という考え方がなんともユニゾンらしい。

 『Ninth Peel』は“理想のアルバム”としての構築美を追求するよりも、1曲1曲をしっかりと作り、揃ってから考えようという気持ちで作ったらしく(※1)、いちリスナーからすると「ユニゾン、こんな曲調もやるんだ」「こんな言葉も歌うんだ」という新鮮味があった。それでも個々の、あるいは斎藤宏介(Vo/Gt)、田淵智也(Ba)、鈴木貴雄(Dr)が集まり3ピースバンドになった時に発揮されるプレイヤビリティ、オリジナリティを以ってすれば、結局トータルの印象は「こんなのユニゾンしかできないじゃん」に変えられる。そういったUNISON SQUARE GARDENにしかないマジカルな力、バンドのフィジカルを、私たちはこのツアーでガツンと浴びせられたのだった。ゆえに、もしもツアータイトルが“UNISON SQUARE GARDEN”だったとしても腑に落ちるライブだったと思うし、「あれ? 今年がアニバーサリーではないよね?」「20周年を前にこんなライブを見せてくれるんですか?」と興奮、感動させられるシーンの連続だった。

 7月1日に東京ガーデンシアターで開催された追加公演は、3人がとにかく楽しそうにしていたのも含めて最高だった。改めてライブを振り返る。

 開演を報せるSE、イズミカワソラ「絵の具(r-r ver.)」がピタッと止んだ直後、斎藤が歌い始めた1曲目は「夢が覚めたら(at that river)」だった。6th~7thアルバムのツアーではアルバムの1曲目がツアーでも最初に演奏されたし、8thアルバムのツアーも1曲目はアルバム収録曲だったが、今回はもはやアルバムの曲ですらない。しかも「夢が覚めたら(at that river)」は、リリース時のツアーでは演奏されなかったものの、4年後、『fun time HOLIDAY 8』で突如披露されファンを驚かせたレア曲だ。要するに、かなり特別感のあるオープニング。時の経過とともに熱を発露させるようなバンドのアンサンブルに、みんなじっと聴き入った。

 「UNISON SQUARE GARDENです、ようこそ!」という斎藤の挨拶、そしておなじみのドラムフィルをきっかけに始まったのは「シュガーソングとビターステップ」。この規模の会場とは思えないほど全体的に音の粒立ちがよく、田淵特有のメロディアスなベースラインもクリアに聴こえてきた。1つ前の曲がバラードだったこともあり、ここで一気に場が華やぐ。同時に、別れや喪失を歌った「夢が覚めたら(at that river)」から人生を思わせる「シュガーソングとビターステップ」へ繋げる流れには泣き笑いの温度感があり、『Ninth Peel』の作品性とそう遠くないものを感じさせる。そして印象的なギターリフが導くのは『Ninth Peel』収録の「ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ」。以降、アルバムの曲が披露される時は“Ninth Peel”と書かれたネオンが灯るという明瞭な演出とともにライブは進んだ。

 「Nihil Pip Viper」は歌とリズムが接着しているA~Bメロと開放感溢れるサビのコントラストが気持ちよく、斎藤のギターソロも痛快だ。ところで、今更ながら「Nihil Pip Viper」とはどういう意味だろう。作者の真意は不明だが、学校の授業ではなくロックバンドのライブだからそんなことはどうでもいい。この音楽に気持ちが盛り上がる個人の集まりによって形成された空間は何よりも尊い。何をどう受け取っているかはきっとバラバラだが、バラバラでいいし、バラバラがいい。この美しさの前では説明やメッセージは無用だ。

 MCなし、全20曲を駆け抜けるように演奏したUNISON SQUARE GARDEN。初めの4曲の時点で向かう所敵なし状態だったが、5曲目「City peel」から始まるブロックは新鮮な展開。新曲の存在がバンドに新しいノリをもたらしているように感じた。間奏のギターソロをたっぷりと奏でていた斎藤をはじめ、メンバーもその新しさを楽しんでいる様子だ。そして「City peel」や「Numbness like a ginger」といった『Ninth Peel』収録のミドルナンバーのジャズ/シティポップ的なフィールを根幹から担うのが鈴木のドラミング。軽やかながら相変わらず手数が多く、3ピースバンドの、もっと言うとユニゾンのドラマーだからこそのアプローチと言えるだろう。

 彼らのライブは、1人のメンバーが「俺がユニゾンをユニゾンたらしめる」という情熱で以ってバンドを引っ張る瞬間――言い換えると、バンドを続けるにあたって特化させた個人の能力をグッと尖らせる瞬間と、他2人のレスポンスの連鎖により成り立っているように思う。斎藤が起点となる時もあれば、田淵、鈴木が起点となる時もあり、勢いに乗って一緒に遊ぶ時もあれば、逆に自分は一歩下がろうという判断に落ち着くこともある。都度パワーバランスを変えながら変形するアンサンブルは、有機的でスリリングだ。

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