欅坂46&櫻坂46のストーリーに欠かせないナスカの楽曲 独創的なメロディラインや大胆な音作りで際立つ非凡な作家性

 先日MVが公開された櫻坂46の6thシングル曲「Start over!」は歌詞、曲、振り付け、あらゆる面で今まで以上に力が入っている印象を受ける。思わず体を動かしたくなるような独特の跳ねるリズム、リスナーを鋭く射抜くパンチフレーズてんこ盛りの歌詞、脳裏に焼きつく独創的なメロディライン、ダイナミックなピアノアレンジ、高揚感をもたらす大胆な転調……音楽面だけにスポットを当てても、櫻坂46というグループの魅力を最大限に引き出した傑作だと感じる。この曲を作曲したのが音楽制作チームのナスカだ。一部のファンにとってナスカは、作曲者の欄にその名があるだけで諸手を挙げて喜んでしまうような存在であり、筆者もまたその一人。本稿では、そんな熱狂的な支持を得ているナスカ楽曲の魅力についてまとめたい。

欅坂46 『エキセントリック』

 ナスカはこれまで、坂道グループに多くの楽曲を提供してきた。初めて坂道に楽曲を提供したのが2017年の欅坂46「エキセントリック」である。洗練されたビートにピアノの洒落たコード感、そして孤独な主人公を描いた歌詞に説得力を与える独特のメロディは、当時多様化していたアイドルシーンの中でも異様な輝きを放っていた。ナスカはその後、欅坂46に「危なっかしい計画」と「避雷針」を提供し、ファンの間で評価が急速に高まっていく。翌年は乃木坂46に「ジコチューで行こう!」を楽曲提供。ナスカにとって坂道グループ初のシングル表題となった同曲は、爽やかで疾走感のあるサマーチューンであった。こうしたポップでストレートな楽曲も発表したことで、多様なスタイルの楽曲を生み出せる作曲力を持っていると世間に知らしめた。

乃木坂46 『ジコチューで行こう!』

 ナスカの評価が盤石となったのは、2019年にリリースされた欅坂46の「黒い羊」だろう。妖しげな低いメロディ、歌ともラップとも言えない語りのようなパート、ピアノとストリングスが織りなす美しくも儚い音世界。リスナーの耳を瞬時に引き込む実験的なイントロも秀逸だった。結果的にこの曲はグループ最後のシングル曲となり、絶対的センターと言われた平手友梨奈が脱退直前に歌ったソロ曲「角を曲がる」をもって、欅坂46とナスカのタッグは一旦は終わりを迎える。しかし櫻坂46に改名した後もこの関係は続き、「条件反射で泣けて来る」と「桜月」を提供。最近では乃木坂46にも「ここにはないもの」や「Never say never」、さらにAKB48にも「愛する人」と「どうしても君が好きだ」を提供するなど、ナスカ作品は今もなお広がりを見せている。

欅坂46 『角を曲がる』

 そんなナスカ作品の魅力は、まずその引き出しの多さである。音楽性は幅広く、ロックやジャズ、ヒップホップ、クラシック、フォークといった多彩なジャンルが混在しており、リスナーを飽きさせない。その上で特徴的なのがベースラインだ。例えば「黒い羊」のAメロでうねるように響き渡るベースは、いわゆるスラップ奏法による高難度のフレーズで、ラウドロックやヘヴィメタルなどに用いられてもおかしくないような攻撃的な重低音である。今回の「Start over!」でもイントロやサビ直前において躍動感のあるベースが楽曲に強いグルーヴをもたらしている。またピアノの使い方も特徴的で、「エキセントリック」では甘美なタッチが心地よい。ピアノアレンジがどこまでナスカ自身によるものなのかは不明だが、「Start over!」でも曲の中盤をダイナミックなピアノが支配し、格式高いクラシックのような優雅な世界へと一変させる。ナスカ作品にあるこうした大胆な音作りは、幅広い音楽性に裏打ちされた多彩な引き出しがあってこそのものだろう。

欅坂46 『黒い羊』

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