Metallica、10年ぶりの来日公演は実現するのか? メタルバンド来日ラッシュの背景にある世界的なツアー状況の変化
同じように長らく日本の土を踏んでいないバンドとしては、5月下旬から欧州での『The Future Past Tour 2023』を開始しているIron Maidenがいる。本来であれば2020年5月に来日公演が行なわれるはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大のため中止を余儀なくされている。彼らは2016年4月に行なわれた東京・両国国技館での二夜公演以降、日本上陸を果たしていない。
6月2日に約6年半ぶりとなる新作『Life Is But A Dream…』を発表しているAvenged Sevenfoldも『SUMMER SONIC 2014』出演時以来、この国を訪れていない。2000年代デビュー組の彼らも来年には結成25周年を迎えるが、新作では、プログレッシブかつコンセプチュアルな作風とジャンルの壁を打ち砕こうとするかのような進化の在り方が話題を呼んでおり、ここにきて彼らが従来の自らの枠組みを超越しつつあることは間違いない。実際、この先、10月半ばまでのスケジュールは北米アリーナツアーの日程で埋め尽くされているが、その進化を日本で実感できる機会がぜひとも欲しいところである。
コロナ禍において続いていたさまざまな息苦しい規制も解除へと向かい、今や日本におけるライブ事情もパンデミック以前のそれに等しいものへ戻りつつある。そして、このタイミングでさまざまな来日公演が続いているのは、ごく単純に、日本よりも早くかつての日常を取り戻しつつあった欧米でのツアーに一段落ついたアーティストたちの目がこちらを向いたからでもある。特に今年9月にはヘヴィメタル/ハードロック系だけでもWinger、Amorphis、Helloween、Dizzy Mizz Lizzy、Extremeなどの単独公演のほか、Testament、Exodus、Death Angelの三つ巴によるイベントなども決まっており、ファンは日程の被りに頭を悩ませながら嬉しい悲鳴を上げている。
同時期にツアーが重なりがちな傾向は、日本に限ったものではない。いわゆる会場不足についてはこの国でもたびたび取り沙汰されているが、欧米ではツアークルーや機材、ツアーバスなどの手配が追いつかず(あるいは優秀な人材や良質な機材を確保し損ねたために)、ツアー開催を断念するケースもある。さらに言えばパンデミック以前に比べるとあらゆる経費が高騰しているため、「3年前に組まれていたプランのまま開催すると、収益が出ないどころか赤字になることが明白」といった理由からツアー中止に追い込まれているアーティストも少なくないようだ。
このカテゴリーに限ってみても、去る2月末にはMegadethが自身初となる日本武道館公演を成功させ、春に来日したDream Theaterも人気の根強さを印象づけ、7月には日本と所縁の深いMr. Bigのフェアウェルツアーも予定されているし、11月にはMötley CrüeとDef Leppardのジョイントによる大規模公演も実現する。ライブハウス規模での来日公演も次々と開催されており、一時は掲載されるべきものが皆無に近かったメタル専門誌の公演スケジュール欄も、今ではぎっしりと埋め尽くされている。こうした現状を踏まえれば、日本におけるヘヴィメタル/ハードロック界隈は不安材料のない活況にあるかのようにも見受けられることだろう。ただ、同時期に来日公演が集中するとなれば、興行的に厳しいものも必然的に出てくることになる。
また、そうして来日公演が相次ぐ一方、欧米との集客規模の格差などのために、なかなか来日公演が決まらない例も多々ある。その意味においては、日本公演の在り方を模索すべき局面が訪れているのかもしれないし、こうした活況が続いているうちに何らかの方策を立てる必要があるようにも感じられる。ただ、そこで肝心なのはアーティスト側や興行関係者による工夫ばかりではなく、我々ファンが諦めずにいることでもあるように思う。「あのバンドはどうせ日本では観られない」と決めつけるのではなく、声を上げ続けること。それがきっと何かに繋がるはずだと信じたいものである。
※1:『BURRN!』2023年6月号
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