Metallica、10年ぶりの来日公演は実現するのか? メタルバンド来日ラッシュの背景にある世界的なツアー状況の変化

Metallica、来日公演は実現するのか?

 大物バンドの活況ぶりが伝わってくると、シーン全体が勢いづいているように感じられることがある。ヘヴィメタル/ハードロック界隈についてもその例外ではない。例えば去る4月14日、Metallicaの約6年半ぶりとなる新作『72 Seasons』が発売されているが、この作品は世界20カ国のアルバムチャートで首位を奪取。アメリカ本国においては記録的な独走態勢が続いていたモーガン・ウォーレンの『One Thing At A Time』に阻まれて初登場2位という結果に終わっているが、その怪物バンドたる存在感は少しも損なわれていない。

 Metallicaは、4月27日からオランダのアムステルダムを皮切りに新たなワールドツアー『M72 World Tour 2023/4』を開始している。“No Repeat Weekend”という謳い文句が掲げられたこのツアーは、週末の2日間、各日とも「異なったゲスト、異なったセットリスト」によるショウをスタジアム規模で行なうというもの。しかも、その演奏内容の差異は微々たるものではなく、2公演を通じて1曲も演奏曲が重複しないという徹底ぶりだ。つまり「Enter Sandman」や「Master Of Puppets」のような鉄板曲ですら毎回必ず組み込まれるわけではないということでもある。

Metallica - Master of Puppets (Live) [Quebec Magnetic]

 こうした大胆な発想が可能なのは、彼らがこの7月で1stアルバム『Kill 'Em All』(1983年)の発売から満40年という長い歴史、シングルとしてのチャート実績などとは無関係な「ファンにとってのヒット曲」を数多く持っていることが当然ながら大きい。筆者自身もアムステルダムでの2公演を目撃してきたが、いずれの日も甲乙つけがたい演奏内容で、物足りなさは一切感じられなかった。また、ひとつ気づかされたのが、こうした基本コンセプトがあることにより、最新作からの楽曲も比較的多くセレクトしやすくなるという点だった。歴史の長いバンドの場合、名目的には新作発表に伴うツアーではあっても、実際にそこから披露される新曲は3~4曲程度というケースが少なくない。しかしアムステルダムでの彼らは2日間を通じて『72 Seasons』からの楽曲を計6曲プレイしていた。

Metallica 2023 LIVE
ラーズ・ウルリッヒ、ジェイムズ・ヘットフィールド(『Download Festival』10 Jun 2023)

 また、当然ながら、いわゆるレア曲も登場しやすくなる。新作からの曲を充分に披露できることに加え、久しく演奏してこなかった曲も試しやすくなるわけで、それは長くツアーを続けていくバンド側にとって新鮮味を維持していく上で意味のあることだろうし、当然ながらファンにとっても喜ぶべきことであるはずだ。

 そもそも今回のようなツアーコンセプトは、筆者がインタビューした際のラーズ・ウルリッヒの発言によると、あるプロモーターからバンド側に提示された「3日間にわたるフェスの初日と最終日にMetallicaがヘッドライナーを務める」というアイデアからヒントを得たものだということだが(※1)、規模といい出演者の豪華さや幅広さといい、このツアー自体がほとんどフェス同然のスケールを伴ったものだといえる。ちなみにこれまでの公演に登場しているスペシャルゲストの中にはArchitects、Ice Nine Killsや、Mammoth WVHなどが含まれているが、この先はVolbeat、Five Finger Death Punch、さらには今年3月に行なわれた『LOUD PARK 2023』での熱演も記憶に新しいPanteraなども合流することになる。

Metallica 2023 LIVE
ロバート・トゥルヒーヨ、カーク・ハメット(『Download Festival』10 Jun 2023)

 このような景気のいいニュースが伝わってくるのは音楽ファンとして気分のいいものだし、こうした熱がシーン全体に伝播していくことを期待したくもなるところだが、同時に頭をもたげてくるのが来日公演実現の可能性についての疑問だ。実のところ、Metallicaの今回のツアーについては2024年夏までのスケジュールが発表されているが、すべて欧州と北米での公演のみとなっていて、バンドのオフィシャルサイトには「このコンセプトに基づくツアーでの追加公演は一切ない」との決定的な一文も見つけることができる。実際、スタジアム規模で行なわれている現在の公演で彼らが使用している巨大なステージセットなどをあちこちに輸送することは不可能に近いものと思われるし、欧州と北米での公演のみに限られているのは陸送のみである程度の公演本数に対応できるからでもあるのだろう。

 ただ、諦めるのはまだ早い。来年の夏まで日程が出ているとはいえ、今年の11月半ばから来年5月下旬までの約半年間については、まだバンドのスケジュールが公表されていない。これはあくまで筆者の予想だが、そうした期間を利用して、現在開催されているツアーのコンセプトに当て嵌まらない形でのツアーを欧米以外の地域で行なうつもりなのではないだろうか。あくまで希望的観測ではあるし、もちろんそこで会場規模や日程をはじめとする条件に折り合いがつくことが前提となってくるわけだが、『SUMMER SONIC 2013』出演時以来となるMetallicaの来日公演が、今作に伴う時間の流れの中で実現することを期待したいものだ。

Metallica: 72 Seasons (Amsterdam, Netherlands - April 29, 2023)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる