須田景凪、葛藤の末に芽生えたポップアーティストとしての覚悟 等身大の言葉と歌を届けた『Ghost Pop』ワンマンを観て

須田景凪、ワンマンに感じた覚悟

 5月27日、須田景凪の約1年ぶりのワンマンライブ『須田景凪 LIVE 2023 "Ghost Pop"』が、昭和女子大学 人見記念講堂にて開催された。今回のライブは、5月24日にリリースされた最新アルバム『Ghost Pop』に収録されている楽曲を軸としたもので、新作の制作を通して辿り着いたアーティストとしての現在地、および一人の人間としての現在のリアルな心境をありのままに伝えるものとなった。

 まず目を引くのが、ステージ上に設置されたジェットコースターを模した巨大セットや「WELCOME HERE」という英字が載った看板だ。開演時には、アルバム『Ghost Pop』のジャケットにも描かれている観覧車のアニメーションがビジョンに映し出され、瞬く間にしてメルヘンでダークな世界が立ち上がっていく。そして、幕開けのSEに重なる大きな手拍子を受けて、ついに須田がステージに現れる。1曲目は、新作のオープニングナンバー「ラブシック」だ。〈いつまでも心に穴が空いてるの〉〈いつまでも心に花が咲いてるの〉という言葉を並列させて歌い届ける同曲は、“ゴースト”と“ポップ”という一見矛盾する二つの要素を一つの作品の中で表現した新作『Ghost Pop』の真髄を凝縮した一曲だ。サビ終わりの〈わかるかしら〉という狂気を孕んだ歌い回しが、ソリッドで強靭なバンドサウンドと相まって、音源以上の気迫をもって深く胸に響く。

 「いい日にしましょう」とフロアに呼びかけた後、ボカロP バルーン名義の楽曲「パメラ」のセルフカバーや「落花流水」をはじめとした新作の楽曲を立て続けに披露していく。観客による各曲ごとの手拍子もそれぞれバッチリ決まっていて、また、次々と変化を重ねていく楽曲の展開に寄り添う緻密な照明演出の数々も素晴らしい。須田の歌とバンドメンバーの演奏も熾烈な熱量を放っていて、4曲を終えた時点で、ライブ序盤とは思えないほどの熱気が会場全体を満たしていた。

 この日初めてのMCパートで、須田は「ついにこの日が来ましたね」と、久々のワンマンライブのステージに立った喜びと興奮を伝えた。彼にとって、声出しが全面解禁されたワンマンライブの開催は3年以上ぶりである。「お互い悔いのないような日にしましょう」という呼びかけを受け、フロアからは大きな歓声と拍手が巻き起こった。そうした光景から、お互いの声を重ね合わせられる時間と空間を、須田だけでなく、たくさんのファンたちも心から待ち望み続けていたことが伝わってきた。

 ここから一転して、ダークな世界へと誘う楽曲が続いていく。新作の“ゴースト”サイドを象徴する楽曲の一つ「Howdy」では、幻想的でドープなサウンドに乗せて、切実な心象を歌い届けていく。ピンク色のライティングを基調としながら、須田のみを黄緑色に照らす照明演出も見事で、圧巻のボーカリゼーションと相まって、改めて彼の存在感がグッと浮き彫りになる。「雲を恋う」における雨粒を模した照明や、ステージ上に設置された十数個の小型モニターを用いた「ノマド」の演出も素晴らしく、このライブの総合芸術としての完成度の高さに何度も驚かされた。何より、「終夜」が特に顕著であったように、壮大なスケールを誇る楽曲とホール会場の相性は抜群だ。深く胸を締め付けるような美麗なサビのメロディが伸びやかに響き渡り、その度に思わず何度も息を呑んだ。

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