須田景凪、ボカロP時代からの“転機“振り返る 表現の根底にある“他者との関係性“の変化

須田景凪、音楽表現の根底にあるもの

 2013年よりボカロP・バルーンとして活動をスタートし、2017年からシンガーソングライターとしてデビューした須田景凪。直近では2ndアルバム『Billow』をリリースしたほか、『ミュージックステーション』の企画「Spotlight」や音楽番組『CDTVライブ!ライブ!』『バズリズム02』への出演など、新世代アーティストとして注目を高めている。

 今回、AWAのプレイリスト企画にて「須田景凪:転機の曲」をリストアップ。バルーンとしての初投稿曲「造形街」をはじめ、ボカロ時代の代表曲「シャルル」、そして最新アルバム『Billow』収録曲などが並んだ。インタビューでは、須田のターニングポイントを振り返りつつ、アーティストとしての創作の核を掘り下げていく。(編集部)

プレイリスト「須田景凪:転機の曲」

“ゲーム感覚”で始めた音楽作り

ーープレイリストの1曲目に選ばれた「造形街」(2013年)は、須田さんがバルーン名義で初めて動画サイトに投稿した楽曲ですね。

須田景凪(以下、須田):自分のキャリアはここから始まりました。投稿したのは2013年の4月でしたが、その年の2月頃にパソコンと作曲のソフト、ギターとボーカロイドを一気に購入して、ひたすらのめり込んで作った曲です。それまではドラムをずっとやっていたのですが、作曲やDTMの経験はなかったので、ネットなどでやり方を一つ一つ調べながら作っていって。DTMってプログラミングとかに近いと思うんですけど、自分はそういう細かい作業が好きなので、最初はゲーム感覚でやっていましたね。

ーー歌詞は他者との関係性がモチーフになっていて、須田さんの楽曲に一貫して感じられるテーマが、この時点ですでに存在しているように思います。

須田:根底の部分は何も変わってないと、今聴いても思いますね。ただ、別に人との関係性をテーマに曲を書こうと考えていたわけではなく、自然に出てきた言葉が結果としてそうなっていました。この頃は音楽で生活しようなんて考えてなかったし、自分の気持ちのアウトプットの場として活動していただけなので。最初に作った曲ですし、いまだに聴いてくれている人が結構いて、思い入れの強い曲です。

ーー3曲目の「花瓶に触れた」(2016年)は、今やバルーン楽曲の代名詞となっているv flowerを用いた最初期の楽曲になります。

須田:この曲は当時の自分からしたらすごく聴いてもらえて、これを入り口にたくさんの方に知ってもらったので、キャリアの一部を担ってくれたお気に入りの一曲です。同時にこの時期、初めてボーマス(「THE VOC@LOiD M@STER」)という、自分でCDを手売りするイベントに何度か出展して、自分の音楽を聴いてくれる人を目の前にする機会があったので、リアルに聴いてくれる人がいることをより意識するようになりました。

ーーこの曲はパーカッション系の鳴り物の扱いがユニークで、そういったリズムアプローチの面白さは、須田さんの楽曲全体に感じるところです。

須田:自分の人生で一番長いことやっていた楽器がドラムだったし、リズムはすべての楽曲の軸にあるものなので。曲を作るときはまずドラムから作りますし、どの曲もドラムが一番こだわっているかもしれません。

「シャルル」のヒットは「いまだにちょっと他人事」

ーーそして須田さんのキャリアにおいて欠かすことのできない楽曲が「シャルル」(2016年)。「歌ってみた」動画やカラオケなどでも人気を集める、今やボカロシーンの枠を超えて広く愛されている楽曲です。

須田:やはり「シャルル」で自分のことを知ってくれた方が何十万人といて、ものすごく広がりが生まれた楽曲なんですけど、逆に言うと、いまだにちょっと他人事みたいなところがあって。この頃は、自分の曲を聴いてくれる人が増えるにつれて、自分が作りたいものを作ってるのか、よりたくさんの人に聴いてもらえる楽曲を作っているのか、そのバランスがすごく曖昧になっていたんです。自分は音楽で食べていくことを真面目に考えていないくせに、聴かれるものを意識して作り続けるのも、感触として気持ち悪いなと思って。

ーーたしかに自分自身に対してあまり誠実ではないかもしれません。

須田:そうそう。なので一回、人に聴かれるとかというより、自分の中にあるものを忠実にアウトプットしようと思って書いたのがこの曲だったので、それが結果としてたくさんの人に聴いてもらえたことが嬉しかったし、好きなものを作っていいんだなっていう実感になったというか。もちろんそれまでも自由にやっていたんですけど、本当に自由にやっていいと許された感覚があって。自分の考えを変えてくれた曲でもあります。

ーー今回のプレイリストでは、ボカロではなくご自身が歌唱したバージョン「シャルル(self cover)」を選んでいますが、それこそこの時期から、須田さんはセルフカバー動画も投稿するようになりました。

須田:自分は元々、歌う人間ではなくて、ドラマー時代もコーラスでさえやったことがなかったのですが、作曲を始めてから弾き語りで曲を作るようになって、歌うという行為自体が好きになっていったんです。それで少しずつ、自分で歌うようになって。それこそさっきの話の延長じゃないですけど、「シャルル」もやりたいからやるというか、今歌いたいからという気持ちで歌ったら、結果として自分が歌ったバージョンもたくさん聴かれたので、それは今の自分が歌う活動に繋がったと思います。

ーーボカロPとしての活動ともまた違う可能性を選べる自由さに気付いたというか。

須田:それもありますし、やっぱり人間の声の良さとボーカロイドの良さは別だと思うので。今回「レディーレ(self cover)」(2017年)を選んだのもそうですけど、自分の場合は曲を作り始める段階で、ボーカロイドで発表する楽曲と自分の声で歌う楽曲の意識が違うんです。ボカロで曲を作るときは、誰が歌ってもしっくりくる、歌っていて気持ちいいもの。自分で歌う場合はボーカロイド名義よりももっと自分の表現を鋭利に入れたいというか、自分の声で歌うから意味があるもの。多分周りからしたら些細な違いだと思うんですけど、作る身としては、それがすごく大きくて。それがどっちつかずの状態は健全じゃない気持ちがあったので、新しく須田景凪という名義を設けて、しっかり分けていくようになりました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる