ハチ=米津玄師&wowakaからEve、まふまふ、バルーン=須田景凪、有機酸=神山羊……本人歌唱で才能を発揮するボカロPの歴史

 日本の音楽業界において今や一大シーンを築くジャンル、VOCALOID。遡ると、そのスタート地点はサービス開始からまだ間もなかったプラットフォーム・ニコニコ動画へ辿り着く。その知名度を一気に押し上げた初音ミクは、当時まだサイト内において萌え要素を含めた二次元キャラクターという位置づけでもあった時代。彼女を含めたキャラをプロデュースする意味合いを込め、歌声合成ソフトによる楽曲制作者を「ボーカロイドプロデューサー」と呼び始めたことが、ボカロPの誕生経緯の一説ともなっている。

 VOCALOIDがここまで広がりを見せたポイントのひとつに、単身で歌唱曲を制作・発表することのハードルを大いに下げた点が挙げられる。他者に歌唱・演奏を依頼することなしに楽曲の発表が可能になったことで、アマチュア作曲者の裾野が大きく広がった点はVOCALOIDの大きな功績だろう。そんな背景が発端のため、いわゆるボカロPと呼ばれるクリエイターは作詞作曲業をメインとする人々が大半を占める。だが時代を経るにつれてシーンからはそうした裏方業のみを専門とせず本人が歌唱するボカロPも増え始め、特に近年はそんなボカロP出身アーティストの活躍も各所で目につくようになってきた。作詞作曲が可能という強い武器を持ち、自らの声での表現を選んだボカロPたち。彼らの活躍を、間もなく20年を迎えるVOCALOIDの歴史からピックアップしていきたい。

 先述の通り元々ボカロPと呼ばれるクリエイターは、その名称の通り楽曲制作活動がメインであった。ジャンル黎明期から活動を続け、現在も様々なヒットチューンを生み出しカルチャーの最前線を担うDECO*27やピノキオピーといった面々を見ると、原始的なボカロPの活動形式が特にわかりやすいだろう。また創成期の雄であるryo (supercell)を見るとその傾向はより明白で、彼自身はあくまでユニットの裏方に徹し、ボーカルは別途シンガーを招致して活動を行っている。加えて黎明期のニコニコ動画には歌唱を得意とするアマチュアクリエイター/歌い手もすでに登場しており、supercellに関しても初音ミクに次ぐ二代目ボーカル・nagi(やなぎなぎ)はこの歌い手活動を経てデビューしたシンガーだ。ボカロPと歌い手、それぞれに独自のムーブメントが形成されており、かつネット発ボーカリストとしての脚光が当たりやすいのは圧倒的に歌い手であった、そんな時代だ。

 その風潮に変化が訪れたのは2012年。VOCALOIDの歴史を紐解く上で欠かせない人物となるハチ、そしてwowaka両名が本人歌唱の活動を活性化させ始めた年でもある。同年ハチは米津玄師として活動を開始、そしてwowakaも自身がボーカルを務めるバンド・ヒトリエを結成(前身バンド・ひとりアトリエは前年に結成)。期せずして「ボカロらしさ」を作り上げた二名がプロデューサーとボーカリストの兼業を始めたことで、ボカロPには本人歌唱という道もあることを、界隈のファンに大きく印象づけることともなった。その後両者共にシンガー・バンドとして人気を着々と獲得し、「ボカロP出身アーティスト」の地位を大衆的に確立。その活躍もまた、VOCALOIDカルチャーの拡大に大きく貢献した。

 彼らの人気が高まると同時に、徐々にボカロP出身となるボーカリストへの注目が集まりだす。身も蓋もない言い方をすれば、特に当時大きなムーブメントを巻き起こす気配を漂わせていた「第二の米津玄師」を探す機運が高まり始めたのである。2018年の「Lemon」の国民的ヒットを機にその流れはより一層加速し、そんな潮流の中でさらにスポットを浴びたのがEve、まふまふ、バルーンこと須田景凪、そして有機酸こと神山羊だろう。彼らが邦楽シーンでピックアップされ始めたのは2018~2019年頃。しかし当然全員がすでにボカロPとしての知名度を獲得しており、その活動のターニングポイントが2015年前後と近接している点も興味深い。

米津玄師 – Lemon Kenshi Yonezu

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