ハンブレッダーズ、ツアーをかけてバンドがたどり着いた“答え” 熱いシンガロングと歓声が響いたNHKホールワンマン
「ツアー、19本やってきて。でも自分の中では19本じゃなくて……」ライブの終盤、「東京」を歌い終えたムツムロ アキラ(Vo/Gt)はそう語り始めた。2020年からの3年間、コロナ禍の影響で、自分たちはもちろん音楽にかかわる多くの人がダメージを負ってきたこと。そんな時期をなんとか乗り越えて、久しぶりにお客さんとともに歌えるようになり、「やっとツアーファイナルができている」という実感を持っていること。そう話すムツムロは言葉に詰まり、顔をくしゃくしゃにして嗚咽した。ずっと胸にしまってきた思いを解放するかのように、一気に感情が溢れ出す。そして彼は言った。「どんなに辛いことがあっても、俺たちはバンドを続けると心に決めました」。それがこのツアーをかけてハンブレッダーズがたどり着いた「答え」だったのだと思う。
3月11日、名古屋からスタートした『ヤバすぎるワンマンツアー2023』。そのファイナルの舞台は5月17日、東京・NHKホール。もちろん彼らにとっては過去最大規模の会場だ。だからといって、いつもどおりアニメ『HUNTER x HUNTER』の主題歌「おはよう。」に乗って登場してきたメンバーの姿に気負いは感じられない。だが、お客さんのほうはそうではないようだ。いきなりどでかい歓声が会場を包み込む。みんな、本当にこの日を待っていたのだ。そうして始まった1曲目「起きろ!」からシンガロングが巻き起こる。「巻き起こる」というか、印象としてはこの日NHKホールに集まったオーディエンスはライブの最初から最後までずーっと歌っていた感じがする。1曲終えて「ルールはまったくないですけど、このツアーファイナルに関してはさすがに声を出してほしいなと思ってます」とムツムロは客席に語りかけたが、そんな「お願い」をするまでもなく、ものすごい声量の歌がステージに向かって飛んでくるのだ。ukicaster(Gt)のギターリフもでらし(Ba)のベースも木島(Dr)のドラムもどこか前のめりで、ムツムロの歌にもギターにもいつも以上に熱がこもっている。ごく普通のエイトビートも、ごく普通のパワーコードも、気持ちが乗ってエネルギーがほとばしる。
お客さんの声は何も曲が鳴っているときだけに聞こえてくるわけではない。曲が終わってちょっと間が空いたかと思うと、客席からメンバーの名前を叫ぶ声が飛び交う。メンバーが口を開けば大歓声と拍手。すごい雰囲気だ。声出しが解禁されて以降、筆者もいろいろなライブに行ってお客さんの声が響いていることに感激してきたのだが、この日のNHKホールのお客さんの声の量は強烈だった。もちろんバンドの演奏もすばらしいし、何より曲のよさがすべてのベースにあることはいうまでもないのだが、この日のライブの主役の半分は間違いなくお客さんたちだったと思う。バンドとリスナーの約束のような歌「再生」、そして音響のいいホールでひときわ切なく響く「ファイナルボーイフレンド」。盛り上がるときは盛り上がり、聴き入るときはじっくり聴き入り……お客さんの生み出すグルーヴが、バンドをさらに乗せていくのがわかる。
木島によるドラムソロを挟んで「ヒューマンエラー」を塊のようなバンドサウンドとともに届けると、グルーヴィーな曲調に強烈なメッセージを込めた「才能」へ。炸裂するギターソロに熱い歓声が飛ぶ。お客さんから投げられる歓声ともヤジともとれない声を拾いつつ、でらしは「ずっと声出しできなかったから、ヤジもすごく嬉しい」と笑顔を見せる。「これから後半戦やっていくんで、やっていくもやっていかないも、好きにしてください」とムツムロは独特の言い回しでお客さんを煽り、ズバズバとリフを突き刺していくような「アイラブユー」を投下。もちろんここでもお客さんは大声で歌う。NHKホール中から上がる〈阪急電車だ〉の大合唱。なんだかとても気持ちいい。その気持ちよさをさらに加速させるのが続く「常識の範疇」。メンバーとお客さんのかけ合いがさらにいい空気を作り上げていった。
その「常識の範疇」を終えてもギターを弾き終わらないムツムロ。でらしが近寄って肩を叩く。するとムツムロは「ごめん、つい楽しくなっちゃって、ギターが」と「ギター」に突入していく。ハンブレッダーズとしての、というか全ロックバンドにとっての基本姿勢を全力でぶちかますようなこの曲でますます大きなシンガロングを引き起こすと、ライブはクライマックスに向けてどんどんパワフルになっていった。