凛として時雨 TKと“不条理アニメ”はなぜ相性が良い? 『水星の魔女』『PSYCHO-PASS』『東京喰種』手掛けた歴代曲から紐解く

 もちろん、TKのボーカルも持ち味のひとつだ。TKの歌声は、男性ボーカルとしては細くハイトーン。曲の中でシャウトすれば、かな切り声や悲鳴のように感じられる。凜として時雨では345(Ba)とともに男女のツインボーカル体制をとっているが、彼の切り裂くようなハイトーンボイスはバンドとソロのいずれでも存在感を放っている。

TK from 凛として時雨を深掘り - SIDE B | FUKA/BORI

 公式インタビューの動画でTKは歌声について次のように語っている。

「初めてリハーサルに入った時、もの凄く狭く音響の環境は良くないところで、その中で歌おうとしても全然歌が聞こえなくて、“じゃあ1オクターブあげよう”と思った。そこから時雨のスタイルが確立された」

「とにかく自分は“歌が歌えない”ってコンプレックスが強い」

「元々が高い地声成分ではなくて、グッとあげているんで負荷がかかってしまってる。やっぱり自分の弱点は歌だなというのがある」

 メタルコアバンドで聴かれるグロウルボイスなどとは違った彼独特のボーカルスタンスは、試行錯誤と身を削るような努力によって生まれ、サウンドメイクと共に強烈なインパクトと魅力を放っている。

 硬軟織り交ぜたドラマティックかつアグレッシブなサウンドと特徴的なボーカルによって、TKは切迫した心理状況や溜まりに溜まったフラストレーションが暴発する一瞬、ある種の異常性を表現する無二の音楽家となったのだ。

 歌詞においても、作品に対するTKの高い読解能力が発揮されている。例えば公安と猟奇殺人者の戦いを描く『PSYCHO-PASS』の「abnormalize」では社会に溶け込めない登場人物の心の内、偽りの世界で生きることへの恐怖といった作品の根幹を的確に歌詞に落とし込み、『チェンソーマン』の「first death」では意味不明なワードで作品のカオス感を表現しつつ、毒々しい熱烈な「ラブソング」へと仕上げている。

 そんな彼の音楽性を見惚れたクリエイターらが、彼とともに仕事をしてみたいと声をかけていくのは自然なこと。

 L'Arc~en~Cielのドラマー・yukihiroのソロプロジェクトであるacid android(現ACID ANDROID)、DIR EN GREYのボーカル・京によるsukekiyo、シンガーソングライターの大森靖子や安藤裕子といった面々への楽曲提供やリミキサーとしての参加。SMAPに提供した「掌の世界」「Dramatic Starlight」でも、彼本来の音楽性がメンバーをリードするような楽曲に仕上がっている。

 2010年代後半から現在にかけては、アニメ分野と関係性のあるシンガー、声優、ゲーム作品に楽曲を提供する機会も多い。2022年には早見沙織、東山奈央、『BanG Dream!』のロックバンド・Afterglowらの楽曲制作・プロデュースを担当。いずれも異なる曲調ではあるが、TKらしさはブレることがなく、いかに彼のサウンドがアニメサイドのアーティストやスタッフから信頼されているのかが窺える。

 そしてアイナ・ジ・エンドが歌う「Red:birthmark」で耳をひくのは、ストリングスの柔らかさと刺々しさという極端さだろう。バンドサウンドはその極端さを補うように鳴らされており、狂気さや不安定な心模様をドラマティックに表現している。

 また、アイナのハスキーな歌声も、切迫した精神状況を代弁するかのよう。サビ部分では歌声にエコー処理をかけることで、まるでヒロインが絶叫しているような悲しみ、憂いが感じられる。

 アニメや漫画作品で描かれる、常人からはかけ離れたような精神状況を、TKの音楽は独特の深みをもって描写する。TKが元来持っていたセンスが、アニメや漫画特有の表現と有機的に繋がり合い、アニメファンに多大なインパクトを与える楽曲が今後も生み出されていくのではないだろうか。

※1 :https://realsound.jp/2022/12/post-1223552.html

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