EGO-WRAPPIN’、溢れる愛を捧げた最後の中野サンプラザ公演 意欲的なライブに見た現在進行形の凄み

EGO-WRAPPIN’、最後の中野サンプラザレポ

 EGO-WRAPPIN’が恒例のホールワンマンライブ『HALL LOTTA LOVE 〜ホールに溢れる愛を〜』を開催。今年1発目であり、彼らにとって7月に閉館する中野サンプラザでの最後のライブとなった4月9日の公演では、会場への思い入れ、今現在のEGO-WRAPPIN’を体現する選曲、そしてホールならではの演出が相まった非常に意欲的なライブを見せてくれた。

 改めてEGO-WRAPPIN’はお洒落だ。その理由は自らが作り出す音楽というアートフォームへの飽くなき探究心と過去に拘泥せずに新しいことへアプローチする姿勢、カルチャーへの深い造詣、時に社会性をも帯びた表現を更新し続ける態度にあると思っている。この日もオールタイムベストな選曲に偏ることなく、20周年以降のモードを明確に体現していた。その気質が何よりお洒落で尖っている。

 プリーツが美しい緞帳が降りたまま「かつて..。」のイントロである武嶋聡(T.Sax/S.Sax/Flute)のサックスソロが聴こえる、粋なスタート。スローかつムーディな始まりに引き込まれる。後のMCでステージの背景にもある飛行船にちなんで“機長”と呼ばれていたことが判明したTUCKER(Key)のピアノソロが美しい。90年代後半からパンクやヒップホップを消化したオルガンプレイヤーとしてエゴと同時代を駆けてきた彼の現在を知るという意味でも興味深い。続く「Neon Sign Stomp」ではicchie(Tp)も加わり、ミュートしたトランペットの音色と中納良恵(Vo)の歌声が交差して、艶を増していく。

EGO-WRAPPIN’ライブ写真
中納良恵

 軽い挨拶の後は近作『Dream Baby Dream』から続けて4曲。2019年の作品だが、音数を絞り間の多いアンサンブルの緩急を今のバンドで表現する面白さに息を呑む。まずはリズムボックスが特徴的な「Arab no Yuki」。エチオピア風の旋律に砂漠を想起、さらに強烈なTUCKERのオルガンがサイケデリックなムードを加速させる。完全に映画の中に迷い込んだ気分だ。また、ディスコロックな「Shine Shine」での森雅樹(Gt)の意識的に若干辿々しいカッティングも味わい深い。伊藤大地(Dr)のこれまた若干後ろ乗りのスネアがグルーヴしない面白いノリを生み出している。森のギターの音色が1曲1曲、世界観の重要な核を作っている。ニューウェーブ感溢れる「human beat」では中納がエフェクトで声がダブルになるマイクで歌唱、フェティッシュな味わいが生まれていく。そこに切り込んでくるフリーキーなギターは80’sのニューヨークパンクだったりマーク・リボーを想起させて、森の趣味の多彩さにニヤニヤしてしまった。ニューヨークつながりでもないが、続く「on this bridge」がルー・リードの「ワイルド・サイドを歩け」を意識して作られた曲だということもあり、心情的にスムーズに乗っていけた。もちろん、そうした時代性やカルチャー抜きでも、「on this bridge」でのミニマムなギターとベースのスカスカなプレイと声で景色を描いていく表現はロードムービーさながらの豊かさを作り上げていたのだが。

 アルバム『Dream Baby Dream』の熟成を感じた後はTUCKERのオルガンにライブアレンジされたイントロでさざなみのような拍手が起こった「a love song」。中納のどこまでも伸びる歌声はホールの残響の贅沢さと相まり、心を溶かす。彼女がステージ前まで歩み出て、コール&レスポンスを促すシーンもあり、コロナ禍をかいくぐり、発声もOKになった今を味わい尽くすようだ。森がホールでやってみたかったという「Fall」を挟み、中納と森だけがステージに残る。

EGO-WRAPPIN’ライブ写真
森雅樹

 森のアコギと中納の歌だけというスタイルはごく初期に見たきりなのだが、単にシンプルでフォーキーな楽曲であるはずもなく、「Finger」では澄み切った水面を思わせる美しさを、そしてグッとテンポを落とした「アマイカゲ」や「admire」では中納の属人性を消去したようなというと妙だが、表現する欲を消したような存在としての声に震えた。「admire」の歌の終わりがエフェクトと混じり合う状態は二人だけで出した音像とは思えないほど、その場からどこかへワープさせてくれたのだった。照明も素晴らしく、ホール公演とは思えないほど光を落とし、目を凝らし、耳も澄ますことでリーチできる世界が作られていた。森が嬉しそうに「色々やってみたくて」と言っていた通り、今、二人はすこぶる挑戦的だと思う。

EGO-WRAPPIN’ライブ写真

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