中納良恵の夢のような歌に包まれた時間 生音ならではの響きで魅了したツアー『あまい』での名演

『中納良恵 live tour “あまい”』レポ

 EGO-WRAPPIN’のボーカリストとして聴かせる存在感のある歌とは一味違う新たな試みで驚かせる中納良恵のソロだが、最新作『あまい』を軸にしたライブ『中納良恵 live tour “あまい”』で、また新たなフェーズに彼女が到達したことを示した。本稿では9月8日LINE CUBE SHIBUYA公演の模様を記していく。

 幕開けから圧巻だった。白いコスチュームに奇妙な帽子を被った3人がステージ中央に並び、アカペラで歌い出したのは『あまい』の1曲目「オムライス」。CDでは中納のボーカルを多重録音しているが、生の声のハーモニーは全く別物だ。澄んだ声そのものは柔らかだが、微妙な音階で重なり合い独特の緊張感を漂わせる。人の声が持つ力にのっけから惹きつけられた。

 中納と並んで歌っていたのは神田智子とAchico。歌い終わると中納はグランドピアノに向かい、コーラスとシンセサイザーを担当する二人もそれぞれの機材の前についた。ちなみに3人が被っていたのはステージセットのランプシェードで、位置につく前にランプに戻していた。こんな突飛なふるまいも中納らしい。『あまい』の録音にも参加したドラムスの菅沼雄太とベースの伊賀航も登場し、ランプが灯って滑らかな「オリオン座」「あなたを」と、『あまい』の曲が続く。中納の歌とピアノを中心に最小限の音が重なっていく演奏が、広々とした空間をホールに描いていった。

『中納良恵 live tour “あまい”』(写真=三田村亮)

 最初のMCで、足を運んでくれた観客への謝辞を述べ、このライブは『ソレイユ』『窓景』『あまい』のソロ3部作から演奏すると、少々緊張しながら告げた。その言葉通りついで演奏したのは「ソレイユ」。14年も前のソロ初作のリード曲ならではの活力があり、パワフルな歌声で盛り上げる。2作目『窓景』からの「Talk To You」は少し落ち着いた雰囲気になり、「四角のトモダチ」は演奏に乗ってライトが踊り、このバンドに合わせたアレンジとコーラスで新鮮な味わいに。6年前に出した『窓景』は多重録音やループを使うなどした実験的なアンサンブルが新鮮だったが、それを生音が生きるオーガニックなサウンドで聴かせることで曲の雰囲気も程よく変わり、『あまい』からの「真ん中」へと小気味いい流れを生んだ。

 「真ん中」は歌の中で右へ左へ真ん中へと交差する人影のように、中納のリードボーカルと神田・Achicoとのコーラスが立体的に重なりピアノやパーカッションが軽やかに跳ね回る。緩急自在の歌と演奏はオーディエンスの気持ちを揺さぶるが、その落としどころを示してもくれ、3作を一気に聴かせた前半が終わる頃には幸せな気持ちになっていたから面白い。

『中納良恵 live tour “あまい”』(写真=三田村亮)

 中盤の弾き語りコーナーでは「Dear My Dear」を歌った後で、コーラスの二人とメイクをしながら「オムライス」を歌っていたのが「労働歌ぽくていい」と笑った。複雑なハーモニーの曲をあっさり「労働歌」というのも中納らしい。またEGO-WRAPPIN’は25周年だがコロナ禍で何もできていないが、相方の森雅樹はオダギリジョー主演のTVドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』(NHK総合)の音楽を担当している、と近況を報告。そんな話に続けて歌い出したのは「サニーサイドメロディー」。7年前オダギリジョーとの出会いとなったTVドラマ『リバースエッジ 大川端探偵社』のエンディングテーマにEGO-WRAPPIN’が提供した曲だ。キュートなラブソングがここではピアノだけでしっとりと歌われて、ちょっと大人のラブソングになった。歌い終わると「サンキュー、EGO-WRAPPIN’」と中納は呟いた。

『中納良恵 live tour “あまい”』(写真=三田村亮)

 メンバーが戻り後半は「濡れない雨」から、セカンドライン風のビートに乗って楽しそうなスキャットも聴かせた「大きな木の下」、コーラス二人と中納が再びセンターに並びアカペラで歌った「あくび」は、中世の教会音楽のように神秘的なイメージを喚起するハーモニーで原曲のイメージを一新した。楽器も加わり立体的な音と声の重なりで聴かせた「ポリフォニー」は、歌いながらフォーメーションを変えていく3人の様子に、フィジカルかつミュージカルなパフォーマンス映画『アメリカン・ユートピア』を連想した。

『中納良恵 live tour “あまい”』(写真=三田村亮)

 中納の歌とコーラスが踊るように重なった「SCUBA」、「みんなを渋谷に誘ってしまった」と歌い込んだ「SA SO U」はスケール感のある曲になり、「ありがとうございました。毎日いい夢を見ていただけるように」と本編最後に歌った「夢」。お茶目な物販紹介などもやったアンコールの「ケムニマイテ」と「おへそ」まで、夢のような歌に包まれた。

 弾き語りで聴かせたピュアな歌、コーラスを重ねることで深みを増しミニマルな演奏で広がる曲、中納のクリエイティビティを惜しみなく見せて聴かせた。これがEGO-WRAPPIN’に、そして中納のさらなる未来へと繋がっていくのは間違いない。

『中納良恵 live tour “あまい”』(写真=三田村亮)

■セットリスト
1.オムライス
2.オリオン座
3.あなたを
4.ソレイユ
5.Talk To You
6.四角のトモダチ
7.真ん中
8.Dear My Dear(弾き語り)
9.サニーサイドメロディー(弾き語り)
10.濡れない雨
11.大きな木の下
12.あくび
13.ポリフォニー
14.SCUBA
15.SA SO U
16.夢

En1.ケムニマイテ
En2.おへそ

中納良恵オフィシャルサイト



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