連載「lit!」第44回:米津玄師、BUMP OF CHICKEN、PEOPLE 1、WurtS……今春リリースのロックソング6選

 週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。この記事では、今春にリリースされた日本のロック作品を6つ紹介していく。

 今回は、米津玄師の配信シングル「LADY」、BUMP OF CHICKENのシングル『SOUVENIR』、EveのEP『ぼくらの』に加えて、3組の新世代アーティストの新曲を選出した。この後の各作品のレビューの中でも改めて触れるが、ここでピックアップしたPEOPLE 1、WurtS、にしなは、コラボレーション楽曲を制作したり、対バンツアーを開催したりするなど、それぞれが互いに交流を深め合っている。もちろん、そうした各アーティスト同士の繋がりは、現行のシーンにおけるごく一部をフィーチャーしたものに過ぎないが、それぞれのレビューを通して、新世代アーティストたちが新しいムーブメントを作り出していく流れを感じ取ってもらえるのではないかと思う。

 本稿が、そうした潮流を感じ取り、新しいアーティストや楽曲と出会う一つのきっかけになったら嬉しい。

米津玄師「LADY」

 一聴して、そのあまりにも軽やかで華麗なソングライティングの筆致に、すぐに心を掴まれた。振り返れば、昨年のCDシングル表題曲は、壮大で深淵な世界を見事に描き出してみせたバラード「M八七」、鮮烈なバイブスに貫かれた過剰で過激なロックチューン「KICK BACK」、どちらも劇的な筆致の楽曲であった。しかし、今回の「LADY」のような端正なポップスを作り上げる手腕も、彼の誇るもう一つの才能であることを改めて思い知らされる。あえて近年の楽曲を引き合いに出すとすれば「Pale Blue」に近いのかもしれないが、今回の新曲は、それよりも自然体でカジュアルなフィーリングを伝えていて、これほどまでに私たちの日常に優しく寄り添うような楽曲は米津のディスコグラフィの中でも稀かもしれない。

 また、もちろん今回も、音のテクスチャーへのこだわりが随所に光っている。特筆すべきは、共同編曲としてmabanuaを迎えることで、彼の指揮のもと、江崎文武(Pf)、MELRAW(Sax)、松井秀太郎(Tp)、川原聖仁(Tb)が豊潤で味わい深いアンサンブルをしなやかに紡ぎ出している。全編にわたり繰り返される押韻も非常に心地よく、まさに、現行のシーンにおける最前線を突き進む米津のポップアーティストとしての力を再証明するような一曲だ。

米津玄師 Kenshi Yonezu - LADY

BUMP OF CHICKEN『SOUVENIR』

 「クロノスタシス」と「SOUVENIR」については、本連載の第3回と第20回でそれぞれレビューしたので、今回は、3月31日に放送された『BUMP OF CHICKEN 18祭(フェス)』(NHK総合)のテーマソング「窓の中から」について書きたい。「18祭」とは、これから先の未来を担う18歳世代の想いをもとにアーティストが新曲を制作し、それを1,000人の参加者と共にパフォーマンスするという企画である。今回の募集動画のテーマは「自分のこと」。コロナ禍で自粛や制限を余儀なくされる中で、いつしか人と距離を保ち、声を抑えることが当たり前となってしまった約3年間。そうした日々において胸の内に溜め込んでいた自らの想いを伝えた18歳世代の動画を観て、BUMP OF CHICKENの4人は強く心を動かされ、今回の新曲「窓の中から」を制作した。

 藤原基央(Vo/Gt)は、同曲について番組内で、「自分の中の超個人的な不可侵領域。それを部屋だと例えるとして、その部屋に設けられている窓から、世界と繋がっている」「僕たち1,004人は、それぞれの窓の中から、それぞれを見つけ合って、ほんの数分間だけ目的をそろえるわけです」と語っていた。それはまさしくポップミュージックの本質であり、これまでBUMPが長年にわたり懸命に伝え続けてきたメッセージそのものでもある。私たちはみな、本質的に孤独である。それでも、一人ひとりがそれぞれの窓の中から音楽を通してお互いを見つけ合うことができる。そして、その豊かな音楽的コミュニケーションを通して得た〈一人で多分大丈夫〉という温かな確信を胸に、その先に続いていく自分だけの人生を力強く生きていくことができる。この〈同じように一人で叫ぶあなたと  確かに見つけた 自分の唄〉は、きっと「18祭」のテーマソングという文脈を超えて、今後のBUMPのライブにおける新しいアンセムとして輝き続けていくだろう。

BUMP OF CHICKEN「窓の中から」

Eve『ぼくらの』

 『僕のヒーローアカデミア』(日本テレビ系)第6期(第2クール)のオープニングテーマとして書き下ろされた表題曲「ぼくらの」を含む、計4曲の大型タイアップナンバーを収録したEP。昨年、新作アルバム『廻人』のリリース&2日間にわたる日本武道館公演を経たことで、今のEveは、これまで以上に大きな支持と期待を一身に背負う存在となった。彼は、そうした変化をしなやかに受け止めながら、今回のEPを通して、今までよりも自然体な姿をありのまま表現しているように思える。

 例えば、シリアスなムードが通底する「ぼくらの」のサビにおいて突如として放たれる晴れやかなメロディラインや、「黄金の日々」における無垢な歌声をそのまま差し出すような歌唱スタイルが象徴的なように、今作の楽曲は、Eveの存在を今まで以上にグッと近くに感じさせてくれる。それは、タイアップを通して私たちの日々の暮らしを彩るという事実以上の、より親密な距離感だ。私たちは未だにEveの素顔すら知らないけれど、それでも今の彼は、そんなことすら忘れさせてくれるほど身近な存在になった。そして、そうした変化は、ポップアーティストの歩みとして圧倒的に正しいと思う。なお、彼が得意とするディスコファンクナンバーの最新型である「虎狼来」は、その曲名がそのまま8月に開催されるアリーナツアーのタイトルとして冠されている。この曲が、夏のツアーにおける重要なハイライトを担うことは間違いないだろう。

ぼくらの (Bokurano) - Eve Music Video

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