連載「lit!」第38回:Official髭男dism、Eve、Måneskin……ポップミュージックシーンを射抜く野心的なロックアンセム
週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。今回は、日本と海外、それぞれのシーンで躍進を続けている新世代バンド/アーティストの新作ロック作品を紹介していく。
年明けに公開した本連載の第32回の記事で触れたように(※1)、全世界的に加速する“ロック復権”のムーブメントは衰えることを知らず、2023年に突入した今もなお、各国で豊かな広がりを見せている。例えば、世界各地で開催される大規模な音楽フェスティバルのラインナップは、まさにそうした潮流を可視化するものであり、日本においてもすでに『FUJI ROCK FESTIVAL '23』と『SUMMER SONIC 2023』のヘッドライナーを含めた第一弾出演アーティストがアナウンスされている。Foo Fighters 、The Strokes 、Blurといったヘッドライナーの発表に歓喜したロックリスナーは多かったはずで、今回ピックアップしたUKロック界の新星・Inhalerも『SUMMER SONIC 2023』への出演が決まっている。
そして、昨年からたびたび取り上げているMåneskinの待望の新作『RUSH!』は、“ロック復権”というテーマを超えて、2020年代のポップミュージック観を刷新してしまうような傑作であった。また、日本のポップミュージックシーンのど真ん中からも野心的なロックナンバーが次々と生まれていて、そうした楽曲がヒットチャートを席巻している光景は痛快である。
今回ピックアップする5作品は、ロックシーンのごく一部をフィーチャーしたものに過ぎないが、この連載、および本稿が、新しいバンド/アーティストや楽曲と出会う一つのきっかけになったら嬉しい。
Official髭男dism「ホワイトノイズ」
今や、2020年代のポップミュージックシーンを代表する存在となったOfficial髭男dism。彼らは真正面から時代のポップと向き合う国民的アーティストでありながら、同時に、燃え盛る野心と実験精神を胸の内に秘める「ロックバンド」として、果敢にギリギリのエッジを攻め続けている。昨年、その奇跡のようなバランス感をもって生み出されたのが、今もなおヒットチャートを席巻し続けている「ミックスナッツ」「Subtitle」であり、どちらの曲もポップさと先鋭性がお互いの最高打点で美しくクロスしたような楽曲だった。
そして新曲「ホワイトノイズ」は、数あるヒゲダンの楽曲の中でも、そうした痛快さが際立った楽曲である。メンバーのルーツの一つであるメタルの轟音ギターフレーズを大胆にフィーチャーしたイントロや、全編にわたり昂り続けるギターサウンド&渾身のギターソロを聴いて、これはさすがにやりすぎだろうと思わず笑ってしまったが、総体としてはポップスとしての佇まいをギリギリのところでキープしているから凄い。昨年、米津玄師の「KICK BACK」を聴いた時も圧倒されてしまったが、シーンの最前線を走り続けるトップアーティストが、一切衒いなくド直球のロックチューンを豪快に放つ姿はとても爽快で、その勇姿に奮い立たされるような思いを抱いたロックリスナーやロックミュージシャンは少なくないだろう。ヒゲダンの「ロックバンド」としてのスタンスをまっすぐに打ち出した同曲は、2023年のシーンにおいて鮮烈な存在感を放ち続けていくはずだ。
Eve「ぼくらの」
「廻廻奇譚」や「ファイトソング」をはじめ、これまでEveが手掛けてきた数々のアニメタイアップ曲を聴くたびに、それぞれの物語の本質を鋭く捉えた上で的確に音と言葉を紡ぐソングライティングスキルの高さに驚かされてきた。そしてそれは、『僕のヒーローアカデミア』(日本テレビ系)第6期(第2クール)オープニングテーマとして書き下ろされた今回の新曲「ぼくらの」を初めて聴いた時も同じだった。「僕の」ではなく、「僕らの」という所有格をタイトルに冠した同曲は、熾烈を極める『ヒロアカ』の物語が懸命に伝えようとしているメッセージと美しく呼応している。
Eveは、自身のTwitterで「全面戦争後の地獄から始まるこの章は自分にとって1番苦しく思い入れのある章でもあります。だからこそこの曲には彼らの結束と確かな希望を込めました」(※2)と投稿していた。2番の歌詞の中に〈それでもまた君に会えるなら/今なら言える 誰一人も欠けちゃならない〉という一節があるように、この曲では、混迷の世界で闘い続ける登場人物たちの結束が歌われている。そしてそれは同時に、アニメの視聴者、つまり「僕らの」希望でもある。何より、晴れやかな疾走感を誇るサビで〈僕らの想いも全部 離さないよ全部/余計なお世話 だって隣に居たいのさ/それがヒーロー〉とEveが紡ぐ渾身のヒーロー論にも強く心を動かされる。アニメの物語が進むにつれて、この曲は、よりいっそう強い輝きを放っていくだろう。
Chilli Beans.『mixtape』
2022年は、数え切れないほど多くの人が、アルバムやライブ/フェスを通してChilli Beans.と出会った1年間になった。年明けには『バズリズム02』(日本テレビ系)の新春企画「コレがバズるぞ!BEST10」で見事に1位に輝き、また、「CDショップ大賞2023」においては、数々の名作アルバムに並ぶ形で彼女たちの1stフルアルバム『Chilli Beans.』が入賞を果たした。そして、このように世間的な注目度が最大限に高まったタイミングでドロップされたのがEP『mixtape』である。
代表曲「アンドロン」のリミックスを含む全5曲を聴くと、3人はこの重要なタイミングだからこそ、今まで以上に大胆に攻めのアクセルを踏み込んだことがはっきりと伝わってくる。特筆すべきは、カラフルなファンクロックナンバー「rose feat. Vaundy」だ。3人にとっての盟友であり、いまや時代のポップスターとなったVaundyを迎えた同曲においては、大きな存在感を誇る彼と互角に渡り合うようなパワフルな歌とサウンドが光っている。そして何より、彼女たちのルーツの一つである海外のポップスの影響を色濃く反映した今作の楽曲たちは、日本の音楽シーンにおいて鮮烈な異彩を放っている。これから彼女たちは、ロック/バンドという枠組みに縛られることなく、まさにVaundyがそうであるように、2020年代のポップ観を根本からアップデートしていく存在になっていくであろう。