『耳をすませば』~『BLUE GIANT』に至るアニメ演奏描写の変遷 手描き、ロトスコープ、モーションキャプチャが与える効果の違い

 音楽と映像は切っても切り離せない関係にある。音楽にとっても映像は、今やプロモーション以上の意味を持つし、映画にとっては歴史の初期から欠かせないものだった。

 日本のアニメ作品にも音楽は欠かせない。近年も、『ONE PIECE FILM RED』に『ぼっち・ざ・ろっく!』、そして現在劇場公開中で絶賛が相次いでいる『BLUE GIANT』など、音楽をフィーチャーしたアニメ作品の話題が尽きない。

 日本アニメはメディアミックスを事業の柱とする関係上、音楽はビジネス的にも重要だが、作中の演奏シーン描写にも磨きをかけ続けてきた。

 そんなアニメの演奏描写はどう発展してきたのか、そして『BLUE GIANT』の演奏シーンは何を達成したのかを考えてみたい。

 なお、本稿では楽器を用いた演奏シーンのみに言及する。アイドルアニメなどのダンスパートにも言及すべき点は多々あるのだが、原稿が長大になりすぎるので、それらは別の機会に譲りたい。

手描きの演奏描写の様々な工夫

 アニメの演奏シーンといっても様々で、どんな作風かや演出意図によって様々な手法が使い分けられている。大別すれば、手描きか3DCGかとなるが、シンプルに手描きと言っても、色々なやり方がある。手描きの場合、アニメーターの感性で作画してもらうか、参考映像を観て描くか、実写映像をなぞるロトスコープなどのやり方がある。

 手描き作画の演奏シーンとして名高いのは、スタジオジブリの『耳をすませば』だ。天沢聖司の家で演奏する主人公の2人に聖司の祖父たちが加わるにぎやかなこのシーンは、実際の演奏映像を参照して描かれている。ただ、実写映像をなぞるロトスコープとは異なる。

 参考動画を観ながら描くことをライブアクション・レファレンスと呼んだりすることがある。これはロトスコープと混同されやすいが、似て非なるものと考えた方がいい。ロトスコープの場合は、基本的に実写映像が完成映像と同じ構図の必要があるが、映像を参考にするだけならその必要はなく、芝居のタイミングなども演出家とアニメーターの手によって作られる必要がある。一概には言えないが、ロトスコープよりアニメーターの意思が強く出ると言えるだろうか。

 2000年代後半ごろから、テレビアニメにもリアリティ溢れる演奏シーンが描かれるようになった。『涼宮ハルヒの憂鬱』、『けいおん!』『Angel Beats!』や『坂道のアポロン』など、演奏シーンを売りにする作品が増加してきた。

 2006年の『涼宮ハルヒの憂鬱』の1エピソード「ライブアライブ」のバンド演奏シーンは、当時多くのアニメファンに絶賛されたが、このシーンではロトスコープのカットとそうでないカットが混在しているようだ。(※1)(※2)

 京都アニメーションはその後、『けいおん!』や『響け!ユーフォニアム』シリーズなど音楽が題材の作品を制作し続けており、基本的に手描きの作画で制作している。『響け!ユーフォニアム』は吹奏楽が題材なので登場楽器の種類が多岐に渡るが、多彩な楽器の演奏を描き分けたという点で、驚くべき達成だ。

『リズと青い鳥』メイキングVol.3 楽器作画編

 『BLUE GIANT』と同じくジャズを題材にした『坂道のアポロン』も演奏シーンの迫真性で評価される作品だ。こちらは、実際の演奏場面を10台ほどのカメラで撮影し、その実写映像を編集した映像をもとに作画されている。(※3)

 ロトスコープによる演奏シーンで近年出色だった作品は、岩井澤健治監督の『音楽』だ。ロトスコープと言っても、描写をどれだけ正確になぞるかはアニメーターの裁量次第。本作は髪の毛一本いっぽんの動きまで精緻に描くシーンもあれば、抽象度を高くしているシーンもあり、その描き分けで演奏の熱量の差異を表現している。

アニメーション映画『音楽』予告編 2020年1月11日(土)全国公開!

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