ツユ、声でつながり観客と通わせた心 初の声出しが実現したワンマンライブ『春時雨』昼の部 -晴-
『春時雨』という言葉を3月4日、Zepp Haneda(TOKYO)にて行ったワンマンライブのタイトルとして掲げたツユ。会場に入ると、花々を揃えたステージセットが視界に入る。ステージ中央にセットされた丸型LEDディスプレイに映った目を瞑るひとりの少女の口を塞いでいるのも花。少女はボーカルの礼衣だ。この美麗なイラストから想起する物語をこの日、昼の部 -晴- でツユは綺麗に体現した。
「歓声があるライブを私たちもみんなも知らない状況で今日を迎えて、お互いにそわそわしていたよね? でもみんなの声が聞けて今日はとても嬉しいです!(礼衣)」
2019年6月12日に結成したツユは、その後世界中を覆った未曾有のパンデミックにより、2020年3月1日、マスク着用&声出し不可の状況下で初のライブを開催せざるを得なかった。これまでにもワンマンライブを開催してきたが、今年1月末のイベントでの声出し解禁を受けて、今回初めてマスク着用の上での声出しが叶った。
ステージ中央のディスプレイに何かが100%へと充電されていく映像が映る。弾けるSEとともに客席からのハンドクラップが鳴り響き、湧く高揚感。サポートメンバーのKei Nakamura(Ba)、樋口幸佑(Dr)、メンバーのぷす(Composer/Gt)、礼衣(Vo)、miro(Pf)がオンステージする。STARTの文字が映ったその瞬間、ツユにとって初のアニメタイアップ曲(TVアニメ『東京リベンジャーズ』聖夜決戦編エンディング主題歌)「傷つけど、愛してる。」でライブがスタート。この日の夜公開予定となっていたフル尺のMVがバックに流れるなか、歌う礼衣の隣に立つぷすのギターソロが晴れやかに空中を泳いだ。曲が終わり、客席から力強く上がる拍手と歓声が、大きな喜びの象徴だ。
「みなさんこんにちは! ツユです。春時雨、昼の部、楽しい時間にしましょう。よろしくお願いします(礼衣)」
ディスプレイの映像がユニットロゴへと変わる。ジェットコースターのような急展開を見せるツユ楽曲にしては比較的穏やかで切なさを含んだ「忠犬ハチ」、「雨模様」。どちらも後半で衝動的なサウンドへと転換すると同時に、雨のワードも散りばめられており、ツユらしさが見事保たれた楽曲になっている。楽曲に煌めきを放つmiroによるライブ限定のインタールードの味わい深さもひとしお。
切ない胸の内で〈劣等生だい〉と繰り返す「風薫る空の下」を歌う礼衣の声に寂しさの音色が足されていることで、心が揺れ動かされる。ボーカリストとしての歌唱力は言うまでもなく、歌詞に宿る微妙なニュアンスを掌握しているからこそ可能な表現力だろう。「どんな結末がお望みだい?」、「かくれんぼっち」と相当なエネルギーを要する楽曲が続く。
ツユの楽曲を印象付けるのは、メンバーの実演とともにステージ上を彩る楽曲ごとの主人公が描かれたアニメーションMVだ。ツユの楽曲の世界観は、ステージの大スクリーンの演出でこそ、全方位に伝わりやすくなる。この日も全身でその世界観を感じ取ることができた。
ドロップアウトした生々しい感情が描き出されるアップテンポなダンスミュージック「テリトリーバトル」。ツユがスタートラインに立った楽曲「やっぱり雨は降るんだね」。耳に心地よい同曲を起点にトリッキーな快進撃を見せてきたユニットとしての深化は明瞭だった。ぷすのギターソロが始まると目と目を合わせた礼衣とぷす。やりたいことをやるふたりの輝いた瞳に再び大きな歓声が上がると、苦い感情が「雨を浴びる」で押し寄せてきた。
切り裂くナイフを模した歌声と過激なサウンドがMVの攻撃的な動きとシンクロするハードナンバー「デモーニッシュ」からは、ピアノの音色で淀んだ感情を洗い流す「ナミカレ」、ティーンの共感を呼び起こす「くらべられっ子」、嫉妬に狂った感情が剥き出しになった「泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて」といった多情多感な楽曲が並ぶ。心の表面から奥底まで突き抜ける歌声と演奏力の妙。強い刺激となって、会場一体を揺らしていく。