RADWIMPS、クリープハイプ、10-FEET……アニメの劇伴制作がロックバンドにもたらす新たな創造性
クリープハイプはアニメ映画『どうにかなる日々』(2020年)の劇伴音楽と主題歌「モノマネ」を担当。綿密に打ち合わせを重ねたRADWIMPSと異なり、尾崎世界観(Vo/Gt)はシーンを決めずに『どうにかなる日々』っぽい曲を思いつくまま作っていったという(※2)。結果として、淡々と描写されるシーンにそっと風を吹かせるような穏やかな劇伴に仕上がっている。他者への思いと性愛欲求が交差するクリープハイプらしいテーマの物語に対し、オーソドックスなバンドサウンドを封じて映画に寄り添ってみせた。
アコースティックギターやバイオリンなど、使用した楽器自体はクリープハイプの過去曲にも散見されるが、温かみや晴れやかさをイメージするその用法は新たな表現と言えるものだった。同時期のシングル曲「愛す」の包容力や、その後リリースされた「四季」ののどかさにも繋がる、素直な温もりが映画音楽によって導かれた。また普段の持ち楽器にとらわれず、楽曲にとってベストなサウンドを追求する姿勢はアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』(2021年)にも通底し、「ナイトオンザプラネット」のようなアプローチにも影響を与えているように思う。
興行収入100億円を突破し、現在も大ヒット上映中の映画『THE FIRST SLAM DUNK』。オープニング主題歌はThe Birthdayで、劇伴には武部聡志が参加しているため全編通しての音楽担当ではないが、この映画の劇伴として10-FEETが複数の楽曲を書き下ろした。昨年リリースしたアルバム『コリンズ』で聴ける5曲の劇伴は、どれもシーンを彩るというレベルではなく、その場面の展開をまるごと躍動させるような仕上がりだ。パンクロックからEDM的な曲まで大量のデモをまず作り(※3)、練り上げられた長尺の音楽は劇中で繰り広げられる試合の熱気をさらに昂らせていく。
まるでプログレッシブロックのような構成の多さと、セッションのようなバチバチとした肉体感が共存するこれらの楽曲。鍵盤やプログラミングの使用自体は10-FEETにとって珍しくないが、「Alert of oz」ではピアノ、「Slash Snake」ではシンセサイザー、「BLIZZARD GUNNER」ではアコギのリフを中心に据えるなど、各曲ごとに新たな配置でのサウンドメイクを実験しているように聴こえる。
こうしたアイデアの集積が、エンディング主題歌「第ゼロ感」のようなアタックの強いビートとシンセのフレーズを活かしたダンサブルな楽曲に繋がっていったのだろう。ミクスチャーロック/パンクロックを絶えず磨き続けてきた10-FEETにとって、新たなアウトプットが加わったように思える。
バンドの持つ力を総動員して生み出される映画音楽。その制作過程がバンド自体に変化を及ぼさないというほうが難しいだろう。これからも、そんな創造性の化学反応が巻き起こった先にある新しい音楽に出逢えることを楽しみにしている。
※1:https://www.billboard-japan.com/special/detail/3741#
※2:https://special.canime.jp/dounikanaruhibi/interview/03/
※3:映画『THE FIRST SLAM DUNK』パンフレット参照
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