宮本浩次、60歳を迎えた現在地 より自由に、まっすぐに歌を愛する孤高のアーティストとしての凄み
宮本浩次が6月12日に60歳となった。ついに還暦である。宮本浩次とは、歌声で命のエンジンをかけているようなアーティストだ。その熱量の高さは常に我々を驚かせ、絶対的信頼を得ている。そうしてエレファントカシマシとソロ活動、両輪で突き進む活動は、歳を重ねるごとに疲弊するどころか、むしろ自由さを増している。
特に50代ラストイヤーの活動を振り返ってみると、まさに疾風怒濤、縦横無尽。エレファントカシマシとしては、新春日本武道館公演を経て、建替え再整備工事のため使用休止となる日比谷野外大音楽堂のファイナル公演という大任を務めた。
宮本浩次ソロ名義では、『news23』(TBS系)エンディングテーマ「close your eyes」、TVアニメ『トリリオンゲーム』(TBS系)第2クールオープニングテーマ「over the top」、ドラマ『人事の人見』(フジテレビ系)主題歌「Today -胸いっぱいの愛を-」に続く形で、「I AM HERO」で『爆弾』主題歌を担当。タイアップを連発しながら、2026年1月から3月には、11カ所をまわる全国ツアー『宮本浩次 tour2026 新しい旅』を行った。
驚かされたのは、若手/後輩アーティストたちとのタッグだ。宮本が作詞作曲を担当し、まふまふが編曲した、Adoによる『沈黙の艦隊 北極海大海戦』主題歌「風と私の物語」という名曲が生まれたのも2025年。RADWIMPSへのリスペクトが溢れ出たカバー「おしゃかしゃま」も書きこぼすわけにはいかない。
そして特筆すべきは、既存の枠組みに収まらない新プロジェクト「俺と、友だち」の始動。初日に選んだ会場は、下北沢SHELTERだった。武道館を即ソールドアウトにする宮本が、あえて250人キャパシティのこの場所を選び、しかも告知は1週間前。エレカシの楽曲も、宮本ソロ名義で歌ったカバー曲も披露するという展開を見せた。
このように、長い活動期間で貼られたレッテルやイメージを自らの手で剝がしていくようにアグレッシブに動き、それでも歌の軸は“宮本浩次”であり続ける――。そんな、とてつもなく緻密なバランス感覚で進んだ2025年。そして、誕生日の2日前の6月10日、50代最後の時間のファンたちと共有するかのようなタイミングで、4年半ぶりとなるオリジナルアルバム『I AM HERO』がリリースされた。
エレカシとしてデビューした当時は、常に何かに苛立ち、客席に吠えていた宮本浩次。そんな彼が日常を重ね、世の中全体が苛立っているようなこの時代、「生きようぜ!」と叫び、「I love 人生!」と歌う――。あらためて確信する。彼にしか届けられない熱がある。
新プロジェクト「俺と、友だち」をはじめ、宮本浩次の活動を見て感じるのは、進化しながら、歌への想いは初心に戻っているということだ。
もともと彼の歌声には、歌を覚えたての幼子のような、まっすぐに歌う声のような純粋な響きがある。宮本の歌手活動に深く関わってきたプロデューサー・小林武史は、その歌声を「正直」と表現していたことがあるが、まさにこの言葉に尽きる。普通なら、いろんな人生経験を積み、歌うことに慣れ、よくも悪くも否応なしに技を覚え、癖がつく。それと引き換えに、ただただ歌が好きだというまっすぐな歌唱は、自然と削られていく場合もある。だから、どこか子どもが歌う童謡のような響きを持ち続ける宮本の歌声は、ちょっと奇跡的というか、ほかにないモチベーションというべきだろう。彼自身、小学生の時に通い続けたNHK東京児童合唱団で歌を歌った時の喜びを、歳を重ねながら、咀嚼しているようにも思える。それほど、時に痛いほど荒々しいのに、言葉は一文字一文字、やさしくはっきり届いてくる。
からっ風に吹かれながら歌う、永遠の少年、宮本浩次。ただただ歌が好きで、なりふり構わず、身体全体を使って歌うその声と姿は、いくつになっても「かなわないなあ」と思う。胸にくすぶり、なかなか引っ張り出せない感情を引きずり出してくれる確信がある。
宮本浩次としてソロ活動をし、カバー曲を次々と歌うようになった7年前は「こんな日がくるとは」と本当に驚いたけれど、今では唯一無二の語り部となり、歌謡曲というジャンルを歌い継いでいる。
そうして孤高のアーティスト、宮本浩次の現在地は、「歌が好き」という、究極にシンプルで、究極に尖った到達点にいる。飾りなし、媚びなし、邪気のない歌への愛と卓越した技術の合わせ技をガツンと喰らわせる。アルバム「I AM HERO」は、そんなアルバムだ。
宮本浩次の歌声は、メロディと歌に綴られる言葉を丸ごと愛し、情報過多で萎えがちな私たちの心を鼓舞する。これからも彼は、細く長い足でステージ中を駆け回り、自由自在に変化しながら、歌を愛していくだろう。ドーンと突き進む、宮本浩次の活躍に期待したい。彼と新たな景色を見に出かけよう。


























