斉藤由貴『何もかも変わるとしても』は新たな自己表現のキャンバスだった 再発を機に辿る、歌声に宿った“人生の足取り”
こうした時間を経て、本作『何もかも変わるとしても』はデビュー当時から彼女のプロデューサーを務めていた長岡和弘からの「せっかく25年も活動したんだから、そろそろアルバムを作りませんか?」という提案で制作された(※2)。新たな人生を歩み始め、俳優としてさらなる充実期を過ごした斉藤が、デビュー25周年を機に、17年ぶりにアルバムという自己表現のキャンバスへの帰還を果たした作品が、この『何もかも変わるとしても』だったのだ。
収録曲はカバーを含む全12曲。楽曲の作家陣にはキャリア初期からの付き合いである谷山浩子、亀井登志夫、武部聡志に加え、遊佐未森、辛島美登里、大森祥子が初参加。楽曲群には当時40代中盤となった斉藤に今こそ歌ってほしいという作家陣の思いが反映されている。
斉藤自身も6曲の作詞を手掛けていて、なかでも夫婦の朝の情景を歌う「折り合いはつかない」と子供への深い愛情を想起させる「Dearest」という2曲の歌詞からは、『moi』以降の新たな人生を歩み始めた彼女の日常と心情が読み取れる。さらに「おうちでかくれんぼ」「手をつなごう」では(「おうちでかくれんぼ」を作詞した谷山浩子の提案で)、2011年に女優デビューした斉藤の愛娘・水島凛を含む子どもたちがコーラスで参加している(※3)。
今回、特筆しておきたいのは1曲目の「予感」(作詞:斉藤由貴/作曲・編曲:亀井登志夫)のセルフカバーである。1986年の3rdアルバム『チャイム』収録の同曲は、シングルカットこそされていないものの彼女のファンの間では人気が高く、近年のライブでも披露されている。〈あなた〉との再会のドラマが、ファンとの17年ぶりの再会の挨拶と重なる秀逸な選曲である。また水島凛は昨年、この「予感」のカバーで歌手デビューを飾っている。過去と現在、母と娘を繋ぐ1曲として、改めてその存在感に注目したいナンバーだ。
それにしても『何もかも変わるとしても』での斉藤のボーカルは17年のブランクを全く感じさせない。例えば本作と『チャイム』の「予感」を聴き比べてみても、むしろその歌声が持つ包容力と説得力は不思議と増してさえいる。いくら前述のシングル盤のリリースや舞台での歌唱があったとはいえ、改めて驚かされた。女性としての、俳優としての17年間が自然と歌声に作用しているあたりは、演じるように歌う斉藤だからこその表現力と言っていい。
再会のドラマで始まった本作は、ドリス・デイが1956年に歌った名曲「Que Sera,Sera (whatever will be will be)」のカバーでミュージカルのように幕を閉じる。〈Que Sera,Sera,(なるようになるわ)〉とありのままの自分を歌うその歌声には、どこか人生を達観したかのような朗らかさがある。
本作以降、斉藤は周囲のスタッフに促される形で、デビュー30周年の企画アルバム『ETERNITY』(2015年)、デビュー35周年の『水響曲』(2021年)とほぼ5年周期というマイペースなサイクルでアルバムリリースを続けているおり、来たる3月31日には東京で開催される『武部聡志 音楽活動45周年記念 プレミアム・オーケストラ・コンサート』への出演も予定されている。俳優としての今後ももちろんだが、願わくはアニバーサリーのタイミングにかかわらずとも、その無二の歌声が新たに届く機会を期待したい。
※1:『月刊カドカワ』1995年1月号
※2、3:『CDジャーナル』2011年3月号
■アルバム商品詳細
『何もかも変わるとしても』
※2011年に発売した商品の再リリース
2023年2月21日(火)発売
・CD(高音質SHM-CD):¥3,300(税込)
・ビクターオンラインストア限定商品(CD+GOODS):¥9,900(税込)
<収録曲>
1. 予感(詞:斉藤由貴 曲・編曲:亀井登志夫)
2. のらねこ(詞:谷山浩子 曲・編曲:亀井登志夫)
3. 遠出したいな(詞:斉藤由貴 曲:遊佐未森 編曲:亀井登志夫)
4. うた(詞:斉藤由貴 曲・編曲:武部聡志)
5. Dream(詞:斉藤由貴 曲・編曲:亀井登志夫)
6. おうちでかくれんぼ(詞・曲:谷山浩子 編曲:齊藤恵)
7. Dearest(詞:斉藤由貴 曲:遊佐未森 編曲:亀井登志夫)
8. 樹(詞:谷山浩子 曲・編曲:亀井登志夫)
9. 手をつなごう(詞・曲:辛島美登里 編曲:上杉洋史)
10. 折り合いはつかない(詞:斉藤由貴 曲・編曲:武部聡志)
11. 永遠のひと(詞:大森祥子 曲:澤近泰輔 編曲:上杉洋史)
12. Que Sera,Sera(whatever will be will be)
(詞:Evans Raymond B 曲:Livingston Jay 編曲:上杉洋史)