評伝:伝説のA&Rマン 吉田敬 第0回「敬さんに近づく旅」

評伝:伝説のA&Rマン 吉田敬 第0回

 吉田敬(よしだたかし)1962年5月13日生まれ。1985年、慶応義塾大学卒業後CBS・ソニーに入社。販促・宣伝畑を歩み、1998年に「Tプロジェクト」を立ち上げTUBEのミリオンヒットに貢献。その後、the brilliant green、平井堅をトップアーティストに育て上げ、2001年38歳で分社化して誕生したデフスターレコーズの代表取締役に就任、CHEMISTRYをブレイクさせた後、2003年に外資系レコード会社ワーナーミュージック・ジャパンに電撃移籍し、代表取締役社長の職に就いた。コブクロ、絢香、Superflyを次々とブレイクさせ、業績を飛躍的に伸長させる。自らが先頭にたってヒットプロジェクトを牽引する伝説のA&Rマンというのが、音楽業界内に認知されている彼のプロフィールだ。そして2010年10月7日、48歳という若さでこの世を去った。

 元号は平成から令和に移り、音楽業界を取り巻く環境も劇的に変化を遂げた。CDパッケージの時代からサブスク(定額聞き放題配信サービス)の時代に変遷し、プロモーションの中心はインターネット上・SNSへと移行しつつある。

敬さん、、、(「社長」などとは呼ばずに、僕たちはいつもそう親しみを込めてそう呼んでいた)
いまだに、いや今だからこそか。
何かにつけて、心の声で自問自答する。
吉田敬だったら、この状況をどう分析するか?
どう僕らに指示を出すか?
そして自らどう動くのか。

 2022年の音楽業界は、実に「ざわざわ」した1年だった。「ざわざわしてる、してない」は、よく敬さんが、そのアーティスト・楽曲がヒットしそうな雰囲気を作れてるかどうかを僕らに問う際に使う象徴的な言葉だ。今でいうと、「バズる」という言葉に近いのかもしれない。SNSでの「バズり」をきっかけに音楽シーンに次々と彗星のごとく新たなアーティスト達が登場し、チャートを賑わした。もちろん、ネームドアーティスト達もSNSを巧みに使いこなすことで、さらなるスマッシュヒットのきっかけをつかんだ。

 一方、タイアップヒットも健在で、コンテンツそのものとタイアップして、その相乗効果が社会現象となり、グローバルに波及した、映画『ONE PIECE FILM RED』ウタ(Ado)を筆頭に、秋クールでは王道のドラマ主題歌ヒットとして、研音所属の川口春奈が主演するドラマ『silent』の主題歌にOfficial髭男dism「Subtitle」が起用され大ヒットを果たす。

 もちろん、忘れてはならないトピックスに、11年ぶりのオリジナルアルバム『SOFTLY』をリリースした山下達郎が、パッケージが売れないといわれる時代にCD、LP、カセットを合わせて30万枚を超える出荷を達成したことも実に世間をざわつかせた出来事である。

敬さん、、
昨年の音楽業界も、敬さんの遺伝子を継ぐプレイヤー達が音楽業界をざわつかせ、
様々な爪痕を残しましたよ。

 敬さんが、突然僕たちの前からいなくなってから13年の時間が経過した。当時の敬さんの年齢をとっくに越えてしまった僕たちは、未だ音楽業界を取り巻く荒波の中で揉まれ続けている。

 そんな2022年、僕はというと、4年半勤めた老舗音楽事務所スマイルカンパニーの代表取締役を退き、独立の道を選んだ。敬さんと共に闘ったレーベル名「デフスター」の「デフ」=(カッコいいの意味)の文字を冠した新会社、デフムーンを設立し、自分なりに新たな闘いを始めることとなった。

敬さん、僕は昨年、ある決意をしました。
敬さんの足跡、生きた時代、過ごした日々を僕なりに文章として残したい。
文章は今まで、ほぼプレスリリースしか書いたことがなかったけれど、あの時の空気を少しでも今の時代に伝えられたら……
サブスクもSNSもない時代に、敬さんとともに、僕らが行ってきた音楽で世間をざわつかせた日々を新たな世代に伝えることができたら……
それが僕の次のミッションだと勝手に確信しました。
かつて、敬さんとともにソニーミュージックからワーナーにチームごと移籍したのも束の間、新しい環境で結果を出せずに苦しんでる僕を見かねて、
「持ち味出せてないから、好きなことをしろ」と
宣伝企画という名のタイアップ部隊を作ることを許してもらったことがありましたね。
「せっかく独立したんだから、好きなことをやってみろ」
今回も背中を押してもらえませんか?

 僕が敬さんに出会ったのは、今から23年前の1999年、ソニーミュージックの宣伝部に配属され、TBSの担当になり、当時音楽情報番組として影響力のあった深夜番組『ワンダフル』にthe brilliant greenの新曲MVのメイキング風景の取材をブッキングする時だった。それから約10年間行動を共にすることになるが、僕が補完できない、その出会う前からの話を含め、この連載を通じて、業界の様々な人に取材をお願いしていきたいと思う。次回から、僕の知り得なかった敬さんに近づく旅を一歩ずつ始めていきたい。

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