アソビシステム中川悠介は、コロナ禍をどう乗り越えるのか 海外戦略から人材育成まで

アソビシステムはコロナ禍をどう乗り越える?

 音楽文化を取り巻く環境についてフォーカスし、キーパーソンに今後のあり方を聞くインタビューシリーズ。第16回目に登場するのは、アソビシステム株式会社 代表取締役社長 中川悠介氏。前回のインタビュー(参考 「中川悠介が語る、10周年迎えたアソビシステムへの危機感と“変化の重要性”」)では、アソビシステムの創立10周年を機に、マネジメント運営の理念と方法論を聞いたが、その後、新型コロナウイルスの蔓延によりエンターテインメント業界は大きなダメージを受けている。

 その状況の中、アソビを率いる中川氏はどう打開策を考えているのか。新しい学校のリーダーズの海外展開から、新しいタイプのアーティストの発掘、アソビシステムという会社自体の捉え直しなど、じっくりと語ってもらった。(編集部)

ストーリーを作れる能力が重要

ーー新型コロナウイルスの問題が生じてから一年余り、「バーチャル原宿」など新たな取り組みも始まっていますが、「アソビシステム」の代表として、現在の状況をどうご覧になっていますか。

中川悠介(以下、中川):うちはリアルイベントを多く手がけてきた会社で、ほぼ1年2カ月それができていないので、相当きつい状況なのは事実です。5月からの緊急事態宣言は1年前とはまったく違い、コロナも少し落ち着いてきていますが、音楽業界の厳しさは変わらない。ただ、そのなかでオフィスを移転してフリーデスクにしたり、地下のスタジオで制作したり、1階のギャラリーでタレントたちの展示会をしたり、みんなで配信できるスペースを用意したりと、2月から“創り出す場所”を整えてきました。

ーーコロナ禍で働き方が否応なく変わり、オフィスの定義も変わってきました。

中川:そうですね。僕は事務所を“コミュニケーションの場所”にしたいと考えています。仕事はオンラインでできることもわかったし、例えば社員やタレントがどこに住んでいてもいいかなと思っていて。そのなかで、事務所はオフィスというよりコミュニケーションのツールとして利用できる場所になるといいなと。タレントが練習や取材に使うのもいいし、週に一回でもここに来て話す機会があれば、常に出社して仕事をすることもないかなと。社員もタレントも、例えば子どもがいれば家にいられる時間が増えるのはいいことですしね。

ーーそうした考え方は、新オフィスの設計段階から考えていたということですね。

中川:そうですね。路面ビルに移転したのは、様々な用途に使用できるギャラリーの併設も目的でした。先日はきゃりーぱみゅぱみゅがプロデュースするフレグランスブランドの展示会を開き、多くの方とコミュニケーションをとることができました。写真展、イラストレーターの個展など、所属するタレントたちの発表の場にしていけたらいいなと。

ーーなるほど。コミュニケーションには社内のものと、社外のものがあると思いますが、その点についてはどうお考えでしょうか。

中川:僕は社外のパートナーともクロスしていくべきだと考えています。これまではどこか「自分たちだけでやる」という意識もあったと思うんです。ただ、これからはいろんな人とシェアしていく時代ですし、近いパートナー的な人たちはとても大事で。新しい事務所はそういうものをもっと広げていく場所にしたいなと思います。

ーーそのなかで、中川さんが社員の方に求めること、資質や方向性についてはいかがですか。

中川:リモートワークの話にもつながりますが、これからの時代は東京一極集中ではなく、「地方と海外」だと思っていて。そうなると画一的な基準というより、それぞれにアイデンティティがあり、自分で考える力、ストーリーを作れる能力が非常に重要になってくると思います。マネジメント事務所というと、“付き人”なのか“プロデューサー”なのか、という議論がありますが、僕は両方加味するべきだと考えていて、付き人である必要はないけれど、きちんとそのタレントのサポートをして、一緒に作り上げていくという対等な関係であるべきだと。そのバランスは大切にしたいですね。

ーーきちんとサポートしながら、場合によっては方向性を示すなど、プロデューサーのような役割も果たしていくと。そうした人材を育成するのは難しくはありませんか?

中川:そうですね。その壁にぶつかってたのが、この5〜6年なのかなと思っています。もともとこの会社は自分が仲間とゼロから作ったもので、ルールも、決まったフォーマットもなかった。だから、人材の育成も正直、行き届いていない面があったと思うのですが、この5年くらいでさまざまな方向性が見えてきて。やはりタレントを育てるのと同じように、スタッフも育てていくことが重要なんだと感じています。

ーーそうすると、ご自身の中での「アソビシステム」という会社の捉え方も変化してきていますか。

中川:変化してきていると思いますね。自分たちでカルチャーを作りたい、という閉ざされた気持ちだった時代もありますが、いまは非常にオープンで、面白いことをするために業界の先輩たちとも、後輩たちとも組んでいくべきだと考えていて。そう考えると、日本のエンターテインメント業界には可能性がまだまだある。世界では独自のビジネスモデルを進化させてきた歴史があるなかで、日本だけガラパゴスで。その最たるものが世界へのチャレンジですが、それは一社とか、一人でやっていく時代ではないと思うんです。「チーム日本」ではありませんが、より広い意味で仲間を作っていくことが重要になっていくだろうと。

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