back number、遊び心あふれる最新作『ユーモア』がチャート1位に 充実した収録曲が示すバンドの今
参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2023-01-30/
本題の前にちょっと脱線話。古いJ-POPばかり流している近所の居酒屋で、最近シャ乱Qの「ズルい女」を聴く機会があり、妙にしみじみしました。
〈Bye-Bye ありがとう さよなら 愛しい恋人よ あんたちょっといい女だったよ だけどズルい女〉
近年J-POPではあまり聞かないフレーズです。恋人女性を〈あんた〉と呼ぶことの是非、ジェンダーバイアス問題もありますが、90年代、つんく♂が描く主人公は〈あんた〉のために貢物やレストラン選びなどをかなり頑張っていました。だけど彼女は無情にも去っていく。泣きたい気持ちや後悔を誤魔化すために名づけた〈ズルい女〉のポジション。あいつを一時振り向かせたオレもなかなかいい男だったぜ、くらいのことを言いたい見栄もあるかもしれない。近年激減したのは、上からモノを言う亭主関白の歌ではなく、負けを認めまいとする強がりな男の歌なのかな、と思ったのです。
閑話休題。今週のチャート、14万枚のセールスで1位に輝いたのはback number『ユーモア』です。昨年末の『NHK紅白歌合戦』に初出場し、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の主題歌「アイラブユー」を披露、立て続けにヒット曲「高嶺の花子さん」を歌唱していた姿が今も記憶に残っています。この2曲はback numberのパブリックイメージをわかりやすく伝えるものでした。
〈君から見た僕はきっと ただの友達の友達〉
〈偶然と夏の魔法とやらの力で 僕のものに なるわけないか〉
2013年発表、シングル曲「高嶺の花子さん」の歌詞です。強がることも自信を持つこともできない自己卑下の言葉たち。もちろん胸を締めつけるフレーズは多々ありますが、back numberの歌には「自分は主役にはなれない、大したことのない人間だ」という出発点があるように思います。謙虚というよりは卑屈、素直さではなく劣等意識たっぷり。でも、だからこそ清水依与吏(Vo/Gt)のラブソングは恐ろしく切ない。選ばれし“勝ち組”じゃなくても恋の煩悶は変わらないのだし、言い出せないもどかしさは言葉にするのが苦手な人ほど共感できるもの。そうやってバンドの支持層はぐんぐん広がっていきました。
〈どれも些細で頼りない決意で 僕の世界の模様は出来てる〉
〈お洒落ではないけど唯一のダサさで 君が笑えたらいい〉
こちらが最新の配信シングル「アイラブユー」の歌詞。卑屈さや劣等感も、もはやオリジナルの貫禄と言うべきか。自分の話だけでなく、タイアップドラマのテーマと向き合いながら、back numberはいつだって選ばれない者たちのリアルな声を歌ってきました。強がらないし、そもそもオンリーワンの勝者になりたいわけでもない。ただこの思いを届けたいと願うだけ。そんなback numberの佇まいは、真面目、シリアス、いいやつ、恋愛下手にも優しいやつ……と、ごく勝手なイメージに結びついていきます。