back number、“ユーモア”に表れるバンドの本質 2年半ぶりの全国アリーナツアーで届けた全身全霊の思い
back number、2年半ぶりの全国アリーナツアー『back number "SCENT OF HUMOR TOUR 2022"』。この記事では、7月の振替公演として行われた幕張メッセ公演2日目、結果として今回のツアーファイナル公演となった9月8日のライブの模様を振り返っていく。
まず、今回のライブ全体を通して、back numberのアクセル全開の攻撃的なモードに圧倒されっぱなしだった。筆者はこれまでに何度も彼らのライブを観てきており、その度にいつも、3人のロックバンドとしての熱い気概を感じていたのだが、この日は特に、まるでブレーキが壊れてしまったかのような狂騒的なモードで突き進んでいた。オープニングナンバー「怪盗」の1番の終わり、ライブ冒頭とは思えない熱量で声を張りながら絶唱した清水依与吏(Vo/Gt)。ゆっくりと、しかし確実に、バンドアンサンブルの熱量を高めていく小島和也(Ba)。そして、時おり無邪気な笑顔をみせながら、大切なファンの前で演奏できる歓びをパワフルなプレイで伝えていく栗原寿(Dr)。序盤から、3人のほとばしる気合いがメラメラと伝わってきた。
特に、鮮烈なロックバイブスを放つ「エメラルド」、乱反射するミラーボールの光を弾き返してしまうほどの怒涛の勢いで加速していく「MOTTO」の2連打の流れは凄まじかった。また、じっくりと歌心を届けるバラードからも、そうした3人の熱い気概が伝わってきた。清水が両手でマイクを握りしめながら全ての感情を振り絞るように歌った「黄色」は、いつもよりも格段に歌の切実さが増していて、強く胸を打たれた。
改めて、これほどまでに熱いback numberのライブを、筆者は初めて観た。終盤、清水は、「こんなにアクセルを踏み込んだことは、人生でありません」と語っていたが、あの言葉はきっと本心なのだと思う。おそらくは、2年半ぶりのアリーナツアーで、そして清水の体調不良による延期を経て、今回、幕張メッセでファンと出会えたことが、メンバー自身の熱いモチベーションに直結していたのだろう。つまり、あの凄まじい熱量は、当初の予定を組み直して参加してくれた観客(&迅速に延期公演を設定してくれたスタッフ)に対する3人なりの感謝の表れでもあったのだと思う。
なお、今回のツアーは、特定のアルバムを冠したリリースツアーではなく、これまでのキャリアを満遍なく網羅する内容であった。ただ、今回のツアーには明確なコンセプトが貫かれていて、それがツアータイトルの中にもあるユーモアだった。筆者は、初めて今回のツアータイトルを見た時、とてもback numberらしいなと感じた。例えば、「自分の得意種目で相手に好きになってもらえたらいいな」という想いを込めたという「勝手にオリンピック」が象徴しているように、back numberの多くの歌には、さりげなく、もしくは大胆に清水なりのユーモアが散りばめられている。
そして、そのユーモアを通してこそ感じられるリアルな感情があることを、私たちリスナーはよく知っている。失恋した自分を〈ハッピーバースデー 片想いの俺〉と表す「HAPPY BIRTHDAY」は、ユーモアを経由することで恋愛の切実さを色濃く描いていることに成功しているし、また、まるで制御不能な恋心を歌った「高嶺の花子さん」の2番における〈いや待てよ そいつ誰だ〉という一連のくだりは、もはやユーモアを通り越してホラーであるとも言える。いずれにせよ、ユーモアはback numberの表現の核の一つであり、だからこそ、ユーモアを随所に滲ませた今回のセットリストは、彼らの音楽の本質を見事に表しているように思えた。また逆説的ではあるが、彼らの真髄でもある直球のラブバラード「瞬き」や「僕の名前を」は、ユーモア混じりの楽曲の間に時おり挟まれるからこそ、その深みが増すのだと思う。改めて、なんて表現の幅の広いバンドなのだろう。