米津玄師、ケンドリック・ラマー、Ado……“一人の人間力で魅せる”ことがポップスターのライブの主流に?

 ライブの日からもうすぐ1カ月が経とうとしているが、10月27日に開催された米津玄師のさいたまスーパーアリーナ公演の記憶が今も鮮明に残っている。2年半ぶりに実現した全国ツアー『米津玄師 2022 TOUR / 変身』の最終日。同ツアーは米津にとってコロナ禍に入ってから初めての有観客ライブでもあり、TVアニメ『チェンソーマン』オープニングテーマとして話題になっており、常田大希(King Gnu / millennium parade)のサプライズ登場もあった最新曲「KICK BACK」や、同じく今年リリースの「M八七」「POP SONG」のみならず、「Pale Blue」も、「感電」も、生で披露されたのはこのツアーが初めてだった。

 新型コロナウイルスによる感染症拡大の影響で中断となり、開催できたのは8公演のみだった『米津玄師 2020 TOUR / HYPE』(2020年2月)は観ていないため、その1つ前のツアー『米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃』(2019年1~3月)との比較になるが、今年のツアーでは大きな変化があった。それは、伴奏を同期に任せ、米津の歌唱のみで楽曲を成立させるシーンが目立ったこと。初ライブから二人三脚で歩む中島宏士(Gt)、須藤優(Ba)、堀正輝(Dr)によるサポートバンドが演奏をする曲ももちろんあったものの、オープニングの「POP SONG」を筆頭にバンドレスの曲がいくつかあり、そしてそれらがライブのハイライトを担っていた。1stアルバム『diorama』から現在に至るまでの音楽性の変遷については以前別の記事でも書いたが(※1)、スタンダードなギターロックサウンドから出発し、エレクトロやヒップホップ、R&Bへと接近していった道程を鑑みれば、それに伴い、ライブでの見せ方が変わったのもごく自然な流れに思える。

 そういった米津のライブパフォーマンスは、海外の音楽シーンとも共鳴している。例えば、米津が「M八七」をリリースした頃、時を同じくして「N95」をリリースしたケンドリック・ラマー(曲の内容もタイトルの背景にあるものも異なるが、同じ時代を生きているからこその何らかのリンクを感じてしまう)。全世界に配信されたワールドツアー『The Big Steppers Tour』のパリ公演は、大がかりな舞台装置があったり、曲によってはパフォーマーが登場したりしていたものの、シンプルな演出の中、その身一つでマイクに向かいラップするシーンもインパクトがあった。他にも『Coachella Valley Music and Arts Festival』(通称:コーチェラ)におけるリッチ・ブライアンなど、昨今のライブシーンを見る限り、ケンドリックの例は世界的に見ても珍しいものではないように感じられる。演者一人の人間力で以って大勢の観客を熱狂させられるかどうかが、新時代のポップスターの条件となりつつあるのではないだろうか。

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