ハチ=米津玄師&wowakaからEve、まふまふ、バルーン=須田景凪、有機酸=神山羊……本人歌唱で才能を発揮するボカロPの歴史

 有機酸がボカロPとして活動を開始したのが2014年、歌い手だったEveがボカロPとしてオリジナル曲を作り始め、反対にボカロPだったまふまふが歌い手としてオリジナル曲を歌唱し始めたのが2015年。翌年2016年投稿のバルーン「シャルル」は一大ブームを巻き起こし、ボカロシーン再興の大きな後押しともなった。また2015年にはジャンル低迷期を支えたボカロPの一人、40mPがイナメトオル名義でシンガーソングライター活動を始めており、この時期がボカロP出身ボーカリストの系譜を語る上で押さえるべきターニングポイントであることをより裏づけている。

シャルル/バルーン (self cover)

 主に2010年代に活躍した面々により、楽曲制作を行いつつ本人も歌唱するマルチな才能を持つボカロPは、2020年代に突入した今メジャーなものになっている。一躍ブームとなったAdo「うっせぇわ」の作詞作曲を経て2021年に自身での歌唱活動を開始したsyudou、同年以降着々とタイアップを獲得するこんにちは谷田さんことキタニタツヤ。また2022年はYOASOBIのコンポーザー・Ayaseがソロで自身初のオリジナル楽曲を歌唱したり、john(TOOBOE)のメジャーデビューや、「大脳的なランデブー」でKanariaが初の本人歌唱に挑戦した件も、ボカロリスナーにとっては記憶に新しいニュースだ。さらに2010年代初頭にハチ、wowakaと並び一時代を築いたじん(自然の敵P)が、活動10周年となる2022年に初の本人歌唱によるミニアルバムをリリースした点もチェックしておきたい。

【Kanaria】大脳的なランデブー

 とは言え一方で自らの歌唱を前面に出さず、裏方に徹し続けるボカロPもいる。冒頭に挙げた大御所とも呼べる面々に加え、近年で言えばヨルシカの作詞作曲、ギターを担当するn-buna、また多彩な楽曲提供を行い、NOMELON NOLEMONとしても活動するツミキも人気ボカロPの一人だ。彼らの場合自身の歌唱作品は大々的に告知するものでなく、あくまでサブコンテンツとするスタンスがSNSアカウントや動画チャンネルからも窺えるだろう。バラエティ豊かな活動方針を掲げ、その才能を個々に遺憾なく発揮するボーカロイドプロデューサーたち。その自由奔放な風潮も、元はアマチュア的なフィールドを土壌とするVOCALOID文化の多様性に由来しているのかもしれない。

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