斉藤和義、シンプルなアレンジで奥深さ増す“歌”の世界 30年のキャリアをじっくりと味わった弾き語りツアー初日
斉藤和義が全国ツアー『斉藤和義 弾き語りツアー「十二月〜2022」』をスタートさせた。10月10日の初日公演は、神奈川県民ホール。アコースティックギターでの弾き語りを軸に、“歌うたい”斉藤和義をじっくりと堪能できるステージとなった。
2021年はバンドとともにアルバム『202020』『55 STONES』を軸にした大規模なツアーを開催。今年はMANNISH BOYS(斉藤和義×中村達也によるロックユニット)、カーリングシトーンズ(寺岡呼人、奥田民生、斉藤和義、浜崎貴司、YO-KING、トータス松本によるスペシャルバンド)のツアーを行うなど、とにかくステージに立ち続けている斉藤。デビュー30周年を目前にした今年の秋から冬にかけて開催されるのは、彼のライフワークの一つである“弾き語り”ツアー。本公演では、真っ直ぐに楽器と向き合いながら紡がれる、シンプルで奥深い“歌”を体感することができた。
ステージの上にはスタンドマイク1本とアンプが2台のみだが、「ここからどんな歌が描かれるのだろう?」と期待が膨らんでいく。そして開演時間を少し過ぎた頃、ステージ下手から斉藤がギターを担いで登場。そのまま最初の曲を歌い始めると、観客は立ち上がり、手拍子で演奏をサポートする。アコギの弾き語りでこれほどの一体感を生み出せるアーティストは本当に稀だと思う。
セットリストは、デビュー当初の楽曲から最新曲まで、30年に及ぶキャリアのなかから幅広くセレクトされていた。アレンジをそぎ落としたシンプルな弾き語りによって、各楽曲のメロディと歌詞をじっくり味わえるのが、このツアーの最大の醍醐味だ。コードを鳴らすだけではなく、ビートやベースラインを感じさせる(まるで一人でバンドをやっているような)アコギの演奏にも心を奪われた。また、楽曲の雰囲気や歌詞のストーリーに合わせたイラストや映像ーー猫、街、海、教室などーーを映し出す演出も楽しい。
ライブ前半で印象的だったのは、今年5月に配信リリースされた「俺たちのサーカス」。心地よいドライブ感と開放的な旋律が印象的なナンバーだが、足でリズムを取りながら聴いていると、〈まだ誰も見たことのない 俺たちのサーカスへ〉というラインが響き、思わずハッとさせられた。「俺たちのサーカス」というフレーズはおそらく、まだ体験したことない出来事や未来の可能性のメタファー。まだまだ先が見えない状態が続いているが、冷笑や諦念に陥ることなく、どんどん進んでいこうーーそんな思いがステージからストレートに伝わってきた。
ライブ中盤では、ピアノの弾き語りを数曲披露。そのうちの1曲は未発表のバラード(仮タイトルは「泣いてたまるか」)。シックなコード構成、憂いを帯びたメロディ、ダンディズムを感じさせる歌詞からは、斉藤のソングライティングのさらなる深みを感じ取ることができた。