中国で日本のアニソンはどう親しまれている? ビリビリ動画インフルエンサー2名に聞く

ビリビリ動画UP主が語る日本のアニソンの魅力

(メイン画像…2019年『BILIBILI MACRO LINK』。ファンはペンライトで推しのUP主に歓声を送る【写真提供:祈Inory】)

 中国の80年代~90年代生まれは、実は子供のころにテレビで放送されていた日本のアニメを見て育った世代でもある。中国では、1980年に『鉄腕アトム』がテレビ放送されたのを皮切りに、1980年代には『一休さん』『花の子ルンルン』など、1990年代には『ドラえもん』『スラムダンク』などが放送されていた。そのため、その世代の日本のアニメやアニソンに対する想いは日本人同様、一際強いと聞く。

 その後、インターネットの普及により、時差なく日本のアニメに触れられるようになると、日本のアニメやアニソンファンの裾野は広がっていったようだ。また、動画共有プラットフォーム「bilibili動画(ビリビリ動画)」の存在も日本のアニメ、アニソン人気を後押ししていると言える。

 2009年にビリビリ動画を運営するエンターテインメント・コンテンツ企業「bilibili(ビリビリ)」の前身が設立。翌年には社名を現在のビリビリに改名し、主に、動画共有プラットフォーム「ビリビリ動画」の運営やライブ配信、モバイルゲームやアニメ制作などを行っている。ビリビリ動画では、日本のアニメのライセンスを取得して放送するなど、アニメファンが欲するコンテンツを絶えず発信してきた。2022年8月時点でのビリビリ動画で再生回数が多い日本のアニメには、8.8億回の『鬼滅の刃』、7.2億回の『呪術廻戦』、6.6億回の『名探偵コナン』などがある。これらの数字を見るだけでも、中国での日本のアニメ人気が驚異的であることがわかるだろう。

 アニメだけでなく、もちろんアニソン人気も顕著だ。ビリビリ動画で「日本动漫歌曲(日本のアニソン)」と検索すると、日本人にも馴染みのあるアニソンが多数出てくる。例えば、花澤香菜が歌う「恋爱サーキュレーション」のライブ動画は、2022年9月9日時点で667万回を越える再生回数がある。

花澤香菜ビリビリ動画オフィシャルより

 また、ビリビリ動画では、日本の歌手や声優がオフィシャルチャンネルを開設し、中国のファン向けに動画を発信している。例えば、上述の花澤香菜をはじめ、宇多田ヒカルや中島美嘉、花江夏樹、Eveなどだ。中国で「アニメ」「アニソン」を語るうえでは、ビリビリ動画の存在は欠かせないといえる。

 さらに欠かせないのが、ビリビリ動画のインフルエンサーでもある「UP主」の存在だ。日本の「うp主」が中国では「UP主」と呼ばれ、ビリビリ動画では、さまざまなジャンルで多数の人気UP主が在籍している。

 現在、76万以上のファン数を有する1991年生まれの祈Inoryも人気UP主のひとりだ。UP主としてだけでなく、中国のアニメやゲームのテーマソングを歌う歌手、音楽プロデューサーとしても活躍している。

ビリビリ動画のUP主にとっての一大イベント『BILIBILI MACRO LINK』。2019年のステージにて(写真提供:祈Inory)
ビリビリ動画のUP主にとっての一大イベント『BILIBILI MACRO LINK』。2019年のステージにて(写真提供:祈Inory)

 ビリビリ動画が開設された2010年ごろからのユーザーで、それ以降、投稿を続けている。動画では主に、子供のころから好きだった日本のアニソンの日本語カバーや中国語バージョンを歌い投稿。例えば、『君の名は。』関連のカバー動画は、2022年9月9日時点で102万回以上の再生回数がある。日本のアニメ好きが高じて独学で日本語を勉強し、日本語の歌詞の意味もわかるほどの理解力がつくようになった。彼女の日本語カバーを聴いても、日本人と変わりないほどの全く違和感のない綺麗な日本語で歌っている。

「日本のアニソンには、ロックやエレクトロニックなど色んなジャンルがあって、子供のころに聴いたときはとても新鮮でした」

 日本のアニソンのように、子供だけに向けたのではなく、大人にも受け入れられるような曲調というのが、当時の祈Inoryには印象深かったようだ。

「今では、日本のように色んなジャンルの曲が歌われてはいますが、私が子供のころに聴いていた中国のアニソンは、いわゆる童謡のような曲ばかりでした」

 日本のアニソンの魅力については、アニメ本編の想像力を掻き立てる要素が含まれていることから、曲を聴くだけでアニメの情景が目に浮かぶのがいいのだそう。これまで多くの日本のアニソンを聴いてきたが、なかでも一番好きなのは、アニメ『けいおん!』の「天使にふれたよ!」(放課後ティータイム)だと祈Inoryは語る。「青春だった学生時代を懐かしく感じますね。とても純な曲だと思います」。

 「投稿した動画のなかで、最も印象に残っている日本のアニソンは?」という問いに対し、祈Inoryは迷わず、2013年に投稿した、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のエンディングテーマ「名前のない怪物」(EGOIST)をあげた。

「学生の時、課題として同級生と一緒に廃墟で撮影したんです。そのときに歌ったのが、『名前のない怪物』です」

 初めて自分たちで撮影したこともあり、思い入れの強い楽曲になった。その動画を見ると、学生が制作したとは思えないほどの完成度。プロのカメラマンが撮影したかのようなカメラワークやカット割にレベルの高さを感じる。その映像と祈Inoryの綺麗で透き通った日本語の歌声がとてもマッチしている。

祈Inoryが学生時代に同級生と一緒に制作したMV。登場する女性は祈Inory本人

 また、祈Inoryは、これまで日本の音楽家とのコラボレーション動画も投稿している。例えば、DECO*27の「ヒバナ」のカバーを中国でレコーディングした際、DECO*27本人が立ち会った。

DECO*27とコラボレーションした「ヒバナ」

 さらに、井上あずみと井上の娘ゆーゆとのコラボレーションとして、祈Inoryと彼女の娘Ayaの4人で「となりのトトロ」を合唱する動画も投稿されている。

井上あずみと彼女の娘ゆーゆ、祈Inoryと彼女の娘Ayaのコラボ。「となりのトトロ」の中国語バージョンを合唱した

 オンラインでの活動だけでなく、UP主にとっての一大イベントが、アジア最大規模のアニソンフェスとも言われる『BILIBILI MACRO LINK』だ。2013年からビリビリが主催。コロナ後は、オンラインでの配信に切り替えるなど、継続して開催してきた。2016年からは、『BILIBILI MACRO LINK-STAR PHASE』という日本のゲスト枠も加わり、さらに盛り上がりを見せている。日本からは、LiSA、ももいろクローバーZ、大黒摩季、浜崎あゆみ、星野源、中島美嘉をはじめ、著名な歌手やアニソン声優も多数参加してきた(映像での出演を含む)。祈Inoryもまた、2013年から何度も参加してきた常連組だ。2022年はコロナの影響もあり、中国国内での開催が難しくなり、初めて日本で開催された。

 過去の『BILIBILI MACRO LINK』の映像を見てみると、来場者のファンたちがペンライトを手に曲に合わせて掛け声をかけるなど、一体感のある盛り上がりが見て取れる。日本のアニソンが国を越えて愛されているのが、映像からも伝わってくる。

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