前田敦子が変えたアイドルにおける“センター”の価値 AKB48卒業から10年を機に振り返る
高橋みなみ「前田敦子は生き方がすごくヘタ」
AKB48の初代総監督・高橋みなみは、書籍『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(2013年/アスコム)のなかで、前田についてこう論じている。
「あの人は不思議な人です。超不器用で、生き方がすごくヘタですね。ある意味、ものすごく素直に生きている。自分の感情や考え方にすごく従う子で、イヤなものはイヤだし、楽しくなければ笑わない」
誰よりもまっすぐだからこそ、好意的なことも、そして自分に向けられる刃も正面から受け止めてきたのだろう。その分、傷つくことも多かった。ただ同書でプロデューサーの秋元康は、その屈託のなさがエースらしい部分であると言い、「この子が喜んで微笑んだときの愛くるしい顔は人の心を打つだろうなという天真爛漫さ」と前田の魅力を分析した。
前田は、2009年7月に開催された1回目の『選抜総選挙』でセンターに対する意識が変わったという。前述した『Quick Japan』でも、「センターであることへの意味が自分の中ではっきりしてきたのは、その(1回目の『選抜総選挙』)あたりからですね。引っ張られるだけじゃなく、引っ張っていかなきゃなって」と変化について話している。
前田敦子が高めたアイドルグループにおけるセンターの価値
前田は、アイドルグループにおけるセンターポジションの価値を高めたひとりではないだろうか。それ以前のアイドルシーンでも、たとえばモーニング娘。には安倍なつみや後藤真希らがいたが、前田は『選抜総選挙』などで実力はもちろんのこと、数字的な面でも苦しみながらその座を勝ち取っていき、“センターに立つ難しさ”を体現した。そして、センターを聖域化させていった。
そうした前田の登場以降、アイドルグループのセンターはより特別なポジションになっていったように思える。乃木坂46でも生駒里奈が初代センターをつとめたが、グループが大きくなればなるほど、その肩書きは崇高なものになる。「誰をセンターに据えるか」は、その後のグループの行方を左右するという部分でも非常に重要な意味を持つようになった。
秋元康は前田のことを「天才的なオーラがある。なかなか説明がつかないんですけど」(『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』)と言葉にできない力を持っていると語っていた。歌やダンスのうまさ、ましてやルックスだけではない。センターには、そこに立つ“格”のようなものが必要なのだろう。果たして今後、前田のような形容しがたいオーラを持つメンバーがAKB48にあらわれるのだろうか。ファンとしては、前田を超えるような絶対的なセンターやエースの出現に期待したい。
※1:https://www.daily.co.jp/newsflash/gossip/2012/08/28/0005332326.shtml
※2:https://www.lmaga.jp/news/2019/08/73946/