音楽から紐解く“十五少女”の物語 少女の焦燥を具現化した世界観の魅力
音楽から紐解く“十五少女”の物語 少女の焦燥を具現化した世界観の魅力 架空の都市“カグツチ市”に暮らす15人の少女を中心に、未完成な10代の物語を描くメディアミックスプロジェクト『十五少女』。2022年4月にプロジェクトの全容が公開されたものの、まだまだ謎は多くある。そんな『十五少女』が体現する世界とは? 今回は、その魅力に迫っていきたい。
『十五少女』は、エイベックス/講談社/大日本印刷(DNP)の3社が描く音楽×物語×仮想世界プロジェクトだ。2021年から精力的に活動してきた音楽分野をエイベックスが担当し、15人の少女たちの過去を描いた小説や漫画を講談社が担当。そして、今後は、大日本印刷がVRやメタバースと呼ばれる仮想空間の発想や技術を活用したライヴ活動などを担っていく。3社の特色を生かしたコンテンツ化はプロジェクトの可聴化、可読化、可視化を実現し、互いに刺激を与える構造を形成している。
彼女たちが生きている世界は私たちが生きる世界とは別のパラレルワールドであると定義されており、作品では“彼方(あちら)の世界”と表記している。彼方の世界では、大人になるために“大人バス”と呼ばれる、“子供都市行きバス”に乗らなければならないのだが、いつ迎えが来るかは誰も知らない。
運営の発表によると、十五少女にはモデルとなった彼方の世界に実在する少女たちがおり、その物語も、彼女たちが実際に体験した記録の再現であると発表されている。最終的には、大人バスで子供都市を目指した旅の様子のアニメーション化が最終目標とのことだが、そのためには私たちが生きている世界=“此方(こちら)のセカイ”の関心を集める必要があるらしい。
また、すでに終わりを迎えた旅路を目撃するという面から、ファンを“傍観者”と呼ぶ。コンテンツの領域分野だけでなく、見る者の視点が交差する姿がこのプロジェクトの特徴といえる。旅路を体験した「15人の少女」、それを再現する「仮想少女」、最後にその様子を鑑賞している私たち「傍観者」、この一見まわりくどい構造にこそ重要な秘密が隠されていることは明白で、今後、徐々にその謎が明かされていくはずだ。ただし、それを解くのは物語の中の誰かではなく、傍観者の皆である可能性が高い。つまり、十五少女は考察系コンテンツでもある。
2021年にリリースしたシングル5曲をコンパイルしたミニアルバム『HATED』は、死をテーマにした作品。情緒を揺さぶるサウンドと歌詞はプロジェクトの輪郭を縁取っている。
1曲目の「君が死んだ日の天気は」では、大切な人の死をテーマとしている。サビに向かって、疾走感が増すサウンドは圧巻だ。この楽曲では「君」を思い続ける一方で、いつも通りの日常が過ぎることへの悲痛な叫びを感情的に歌い上げている。
さらに、印象的だったのは雨の表現だ。〈誰も傘を持たず〉とつづった後にくる、サビ終わりの〈君が死んだ日の天気は…雨〉。これは、雨が「君」の死を連想させていると共に、死を忘却した人々を傘を持っていないという表現で対比させている。
また、曲が進むにあたって、〈だから、僕はせめて雨が降ることを祈る。〉は〈だから、僕はせめて雨が流すことを祈る。〉と変化する。これらは死に直面した主人公が悲しみから解放されること=死者を忘れることへの許しを乞う様子に思えた。雨上がりの地面が煌びやかなように、部分的には爽快なサウンドであえて展開されていくのは、この祈りに対する死者からの応えなのかもしれない。こうした、楽曲の考察が多角的にできる構造は、まさに傍観者(聞き手)への投げかけと言える。