リーガルリリーが導く、儚くも確かな光 幻想的な空間へいざなった『Light Trap Trip』ツアーファイナル公演

リーガルリリー、コンセプトツアー最終日

 会場であるZepp DiverCityに入った瞬間、ロビーは暗闇に包まれていた。オーディエンスは足元に灯された、微かな緑色の光だけを頼りにフロアへ向かうしかない。まるで蛍のような儚い光を辿る感覚が、私たちを日常から少しの間切り離し、空想の世界へといざなってくれる。

 リーガルリリーが、今年の1月19日にリリースした2ndアルバム『Cとし生けるもの』のコンセプトツアーとして開催した『Light Trap Trip』。4月23日の京都磔磔を皮切りに全国13カ所で行われたツアーが、7月5日に最終日を迎えた。フロアに入るとSEとして川のせせらぎの音が流れ、オーディエンスの熱気で満ちているはずの空気の温度まで、どことなくひんやりと感じられる。入場時には写真家 吉川然による写真とたかはしほのか(Vo/Gt)による『ルーメン』=ドイツ語で“光の束”と冠された詩が綴られたリーフレットが配られた。開演までの時間、それらに目を通して待っていると、再び少しずつ日常から切り離されていく感覚がある。

 淡い緑の照明に照らされた舞台の上で、1曲目に披露されたのはアルバムの冒頭を飾っている「たたかわないらいおん」。ライブのオープニングにふさわしい、爽快でありながら浮遊感のある演奏と歌によって、舞台の上にはさっそくファンタジックな世界が展開されていく。白い振袖の付いた服をモンシロチョウのように揺らしながら歌うたかはしの唯一無二の歌声は、可憐でありながら高らかだ。その歌声とギターを支えるように伸びやかに広がっていくゆきやま(Dr)と海(Ba)によるビートは、まるで草原のようにおおらかにフロアをも包み込んでいく。

 アルバム曲を中心としつつも新旧織り交ぜたセットリストは、「風にとどけ」「東京」と、1曲ごとに彼女たちの深い深い心的世界を投影した楽曲へ移っていく。「東京」で〈ファンタジーは素面です。〉と歌うたかはしの幼気な少年のような声音。まさに素面のまま、ファンタジーの世界にすっかり魅入られてしまった。

 そんな圧倒的な世界を舞台上に構築しながらも、彼女たちはどことなく浮世離れした、涼しい表情でシューゲイズした激烈なバンドサウンドを響かせていく。また、サウンド面もさることながら、印象的だったのは曲間に配置されたポエトリーリーディングだ。たかはしが無垢な子供のようでありながらどことなく危うさを孕んだ声で語り出す度に、フロアの空気がしんと凪いでいく。誰かの息を飲む音すら聞こえそうなほどだ。

 なかでもそんなポエトリーが存分に活かされていたのは、「君と僕の涙が、美しかったこと」という呟きからいざなわれるように披露された「蛍狩り」だろう。ロウソクのような光が3つだけ灯り、海、ゆきやま、そしてたかはしをそれぞれほんのりと照らし出していく。まるでベッドタイムストーリーでも聴いているかのような、優しい空気が舞台の上に満ちていくが、そこでたかはしが語るのは、命の期限と循環の物語だ。アウトロのリバーブのかかったギターが、言葉や声で表しきれなかった叫びのように迸り、ゆきやまによる羽虫のはばたきのようなシンバルが、その儚い美しさをさらに彩った。

 「銃弾が国境を分かつ」「その下には、私たちとおなじ、花が咲いていました」というたかはしの言葉を経て披露された「9mmの花」、そして「アルケミラ」からも同様の幻想的な儚さを感じられた。たかはしのやわらかくも力強い歌声を底上げする海のコーラスが、賛美歌のように神々しい。

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