tricot、SEAPOOL、リーガルリリー、羊文学……感情の機微を繊細に表現したギターバンドの最新作

 もはやテクニック的にも理論的にも敢えて「女性」を謳うことは不要な現在のバンドシーン。スキルがフラットになったことで、全員女性メンバー、もしくはメンバーの大半を女性が占めるギターバンドのサウンドやアンサンブルそのものに耳がいくようにもなった。今回は2020年代に突入し、特に印象的な4組のバンドアンサンブルと、それを必要とするスタンスの核を検証していきたい。

tricot『真っ黒』

 まず結成10周年というタイミングで、意外なことにメジャーとのタッグを組み、新作『真っ黒』をリリースしたtricot。変拍子を多用したマスロックというスタイルと、一見相容れないような中嶋イッキュウ(Vo/Gt)のセンシュアルなボーカルのクセになる違和感はここにきて、さらに磨き抜かれた印象だ。tricotの場合、キダ モティフォ(Gt)が選ぶ音色とリフやフレージングの変幻自在さが、複雑なドラムとベースのリズムにもうひとクセ加え、言葉以外の感覚的な部分に訴えかける。特に本作では「右脳左脳」でのR&B寄りのビートや音色のセレクトに加え、キダの定形にとらわれないオブリガートはジャズの領域へ接近。どこか遠くの情景を喚起させるリバーヴィなギターのイントロが印象的な「危なくなく無い街へ」は、キダが小袋成彬の音源で重用されていることも理解できる。さらに「なか(Album Ver.)」では、30カ所近いアメリカツアーを共に回った、CHONのギタリスト二人も参加しており、中嶋のラップ的な言葉の置き方と、会話するようなギターのやりとりが面白い。彼女たちは別に新世代ジャズ以降のバンドアンサンブルを学習して楽曲を生み出しているわけではないだろう。メンバーのベーシックにあるNUMBER GIRLのオルタナ寄りのギターサウンドやリフの鋭さ、toeなどマスロックの変拍子に、現行のヒップホップやR&Bも吸収し、アレンジへ反映され、抜き差しがレベルアップ。結果、風通しの良いオケの上に乗る中嶋のボーカルは過去最高に明確に聴こえる。リズムが変態的でありつつ歌モノでもあるという、世界でも稀有なバンドに到達した。

tricot「右脳左脳」Music Video
SEAPOOL『Kiss The Element』

 タフなバンドサウンドという意味合いでは、SEAPOOLも今年に入り、俄然、注目度が上昇しているバンドだ。徳島出身の小原涼香(Gt/Vo)と飯谷真帆(Ba)が軸になり、後に白井景(Dr)が加わった3ピースで、大阪を拠点に活動している。昨年リリースされたEP『OK SUGAR ISSUE』をFLAKE RECORDSのレコメンドで知り聴いてみると、おそらくZ世代であろう若さゆえにあらゆる時代のロックからオルタナやグランジを直感的に選択した印象だ。初期Sonic YouthやNUMBER GIRL、カナダのガレージ/ノイズバンド・METZも真っ青な荒削りでソリッドなサウンドに清々しさすら感じる。そんな彼女たちは最新EP『Kiss The Element』を、2月26日にリリース。すでに本作から先行配信されている「素描」は、ギターの弦が鋼であることを意識させるヘヴィメタリックな響きと、感覚的な単音のフレージング、フィードバックノイズを効かせた楽曲で、まるで身についた仕草のように自然に駆使する小原の堂々とした演奏には冷ややかな殺気すら感じる。ラウドで怒涛のアンサンブルでありながら、歌メロだけを取り出すと口ずさみたくなるようなポップさもあるという意味ではtricotにも通じるアンビバレントを持ったバンドだ。愛や恋といった人との距離感や、出来事に対して発生した感情を一旦引きで捉え、抽象的に描く歌詞とソリッドなサウンドの親和性も高い。

SEAPOOL – 素描

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