SARUKANI、ビートボックスクルーならではの楽曲制作の秘訣 「4本のマイクで世界中を駆け巡りたい」今後の野望も語る
SARUKANIが意識するビートボックスにおけるポップさ
ーー1stデジタルアルバム『What’s Your Favorite Number?』がリリースされましたが、その制作のきっかけを教えてください。
SO-SO:きっかけは僕が以前世界大会で披露した曲を収録したアルバムをリリースした際に沢山の人が聴いてくれたことですね。その時は今のようにサポートしてくれる人は周りにはいなかったけど、色々な国のチャートで1位を獲ることができ、とにかくめちゃくちゃ再生数が伸びたんです。
そういう成功体験があったから、これはもうSARUKANIでもアルバムを作るしかないということでメンバーにアルバム制作を提案しました。
今回は去年の世界大会で披露した曲を中心に収録しました。というのも世界大会の動画がすごく沢山の人に見られていたこともあって、以前からそこで披露した曲に対するファンからの音源化を求める声が多かったんです。
KAJI:その意味では僕らのファンの欲望を全て詰め込んだアルバムだと言えますし、これを聴いてもらえれば僕らの全てがわかると思います。
ーー普段はどういったプロセスで楽曲を制作されているのでしょうか?
SO-SO:リリースする楽曲の制作に関しては、僕とKoheyが主導する形で行っていますが、制作自体はまず最初に全員の口から出てくる音を全部録音するところから始めます。その録音した音を一旦、音楽制作ソフト上に並べて「この音とこの音を使ってイントロを作ろう」とか、そういう感じでみんなでアイデアを出し合いながらやっています。
あと基本的に僕らはマスタリングまで自分でやるので、曲のラフを作って、あとはアレンジャーに任せるようなことはしません。こういうプロセスで楽曲制作する理由は、一気に自分たちで全部作り上げてしまわないと気が済まない僕の性格に起因するところが大きいですね。
ーー大体1曲作るのにどれくらいの時間がかかるのでしょうか?
SO-SO:リリースするものとパフォーマンス用に作るもの、あと曲によるところが大きいので一概には言えませんが、今作の場合だと世界大会の予選を突破するために作った「1!2!3!4! (Wildcard ver.)」は、自分たちが良いと思った要素を全部詰め込んで作ったので完成までに1カ月以上かかりました。
KAJI:多分、この曲が今までのSARUKANIの曲の中では一番時間をかけて作った曲であり、苦労した曲だと思います。なので、名刺代わりの1曲というか、そういう意味でもアルバムに収録することにしました。それとこの曲もそうですが、今作ではKoheyがメインになって制作した曲が多く収録されています。
ーーアルバムはベースミュージックを中心とした内容ですが、EDM以降のグリッチなベースミュージックの曲など音楽制作ソフトを使う場合でもそれなりの制作スキルが必要な曲も収録されています。そういった曲をビートボックスでやろうと思った理由は?
RUSY:単純に僕らがそういう曲が好きだからというのが理由のひとつですが、ビートボックスとの親和性の高さも関係しています。
SO-SO:そもそもコード楽器がすごく沢山鳴っていたり、ボーカルありきの曲が多いJ-POPをビートボックスで再現するのはすごく難しいんです。でもベースミュージックは、とにかくデカいドラム、ヤバいベース、奇妙なベースの3つの音さえあれば成立する音楽なんですよね。
Kohey:僕らの先輩ビートボクサーの中にはSkrillexの曲をカバーしている人もいますし、ビートボクサーの多くはそういったクラブミュージックから大きな影響を受けています。
RUSY:ただ、以前からビートボックスでJ-POP的な曲を作る人もいますし、最近はファンが増えたことでビートボクサーの価値観自体も多様化したこともあり、色々なジャンルの曲をビートボックスで再現する人も増えていますね。
ーーSARUKANIさんの曲には独自にビートボックスをポップに昇華しているような印象がありますが、“ビートボックス”におけるポップさにはどのような要素が求められるとお考えでしょうか?
Kohey:それに関しては人間っぽさ、そしてわかりやすさという答えになると思います。
SO-SO:僕としてはビートボックスの曲を子供が聴いてワイワイはしゃぐようであれば、その曲はポップだと思います。
RUSY:やっぱり人間なのでどうしても打ち込みのような電子音は出すことができないのですが、逆にそこもビートボックスの強みのひとつだと思うんです。
SO-SO:例えば、シンセで作ったベース音の波形は一定ですが、人間がやっているビードボックスのベース音はちょっとずつブレているんですよね。そういうところも人間味のひとつだと捉えています。
ーー収録されているそれぞれの楽曲構成の巧みさも魅力だと思いましたが、ご自身ではどんなところが今作の魅力だと思いますか?
Kohey:今作ではできる限り音色変化が出るようなエフェクトは使わず、生のビートボックスを重視しました。なので、使ったエフェクトはEQとコンプレッサーくらいですし、それも音を整えるくらいでしか使っていません。
ーー楽曲制作は自分たちで音楽制作ソフトを使いながら、細かく音を編集する形で行われているということでしたが、今のビートボックスシーンではそういった制作手法が主流なのでしょうか?
SO-SO:そういう手法で制作しているのは多分僕らだけだと思います。
KAJI:これまでのシーンからすると1小節分を打ち込んでループを作るみたいなやり方は外道だったというか。日本はおろか、海外にもそういう人はあまりいないし、大体はライブを録音したものを素材として誰かに渡してミックスしてもらうか、ライブ音源をそのまま曲としてリリースするという人がほとんどですね。
ーーでは、このような制作手法にすることで得られるメリットはどんなところにあるのでしょうか?
SO-SO:オリジナル曲を量産できるところにあります。そもそもビートボックスってカバーやサンプリングの文化の上で成り立ってきたものだから、オリジナル曲を作ること自体も異端といえば異端なんです。
でも、オリジナル曲があった方がライブもできるし、収益化することもできます。なので活動していく上でオリジナル曲が量産できるというのはビートボクサーにとってメリットしかありません。それと音源として作る分には音楽制作ソフトを使って作る方があきらかに仕上がった曲のクオリティが高いというのもメリットのひとつですね。
KAJI:これまでのビートボックスの音源はライン録りのものが多かったことを考えると、この手法はパラダイムシフト的なものだと言えますね。
SO-SO:ただ、僕自身も3年くらい前はこういうやり方で作られた曲はビートボックスの音源じゃないと考えていました。それに今でもこういったやり方の是非を問うような論争もあるにはあります。とはいえ、それもごくごく少数で、多くの人はこういう手法で作った音源も受け入れるようになってきましたね。
ーーなるほど。では、近い将来このような制作手法のパイオニアとして、シーンの中ではSARUKANI以前、以後みたいな形で語られるようになるかもしれませんね。
SO-SO:そうなれば嬉しいですね。
RUSY:それと最近になって、ようやくビートボクサーがプレイヤーとしてだけでなくアーティストとしても認知されるようになったおかげで、みんなが作品を映像化することに力を入れ出すようになりました。
実際に僕らが出場した世界大会でもバトルだけを重視するビートボクサーは少なくて、そこで良いパフォーマンスを見せることで自分たちのアーティストとしての価値を示したいという人が多い印象があります。
ーーSARUKANIさんの曲は、1曲の中でビートチェンジしていく曲も多く、聴いていても飽きません。こういった楽曲展開にする理由を教えてください。
Kohey:元々僕らが大会に出ていたこともあって、曲中でお客さんを飽きさせたくないというのが理由です。だから1曲の中で最低1回はビートチェンジさせることにしています。
KAJI:普通のポップスでも1番も2番もサビのビートが4つ打ちだけだとお客さんも飽きると思います。それとビートボックスのように音のみの音楽がそんな感じだとなおさら面白くないだろうということで、展開を増やすことで飽きさせないようにしています。