Panorama Panama Town、爆音で掻き鳴らした“2021年のロックンロール” 1年半ぶり有観客開催の東京ワンマン
この日は生え抜きのコアファンもたくさん集まっていたと思うが、彼らを歓喜させたのが、最近のライブではレアな「odyssey」と「パン屋の帰り」のアコースティックアレンジ。センチメンタルなメロディや、孤独や焦燥を淡々と綴る歌詞が丁寧な演奏で解像度高く立ち上がる。この2曲を収録した『Hello Chaos!!!!』がリリースされた頃、バンドは神戸から上京。大学生からバンド一本になった当時とは演奏も歌も深度が違うだろうが、何かを後に残し進んでいく楽曲を今、改めて演奏することには必然性も感じられた。
緊張感から一瞬解放されたバンドからは、状態の良さが漂った。岩渕はコロナ禍で思うようにライブができない日々で自分と向き合い、曲作りに励むことになったという。すでにかなりの曲があるようだが、リスタートを昨年の配信ライブ時にも確信させた「SO YOUNG」で後半に突入。〈信じ抜いてみりゃ これが答えだろう〉という締めの歌詞が、バンドの通過点に見える光のような歌だ。
リフでしっかりグルーブを作り出した「ロールプレイング」、浪越のソロが哀愁をブッ飛ばしていく「リバティーリバティー」と来て、バンド史上最速のBPM215という高速ポストパンク×ガレージな「Rodeo」では、フロアもこのマシンガンビートに振り落とされてたまるかという反応を見せた。岩渕がスポークンワードを畳み掛ける「MOMO」でも一瞬、動員が制限されていることを忘れるほど、激しくフロアが揺れた。本編ラストは何ら奇を衒うことなく、パノパナというバンドの切なさを曲にしたような「Sad Good Night」。全編通して、これまでで最も引き締まった演奏だったのではないだろうか。そのこと自体が希望だし光だ。またアンコールでは、リスペクトするバンドを迎えての2マンライブを東京、大阪で7月に開催することもアナウンスされた。
「今日はほんとに来てくれてありがとう」と10回は言ったんじゃないだろうか。アンコール最後は、彼が音楽を作る意味をそのまま歌にしたような「世界最後になる歌は」だった。つまり、ここがリスタート。だが、このモダンに研ぎ澄まされたロックンロールをファンだけのものにするのは口惜しい。まだまだ難しい選択を迫られるだろうが、今後開催予定のフェスで不特定多数のオーディエンスの耳目と心をかっさらって欲しい。切に願う。
■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。