ノイ村の新譜キュレーション
Lady Gaga、Powfu、Lil Uzi Vert……ポップミュージックシーンの今を掴む5作をピックアップ
・Lady Gaga「Stupid Love」
・Bad Bunny x Jowell & Randy x Ñengo Flow「Safaera」
・Ava Max「Kings & Queens」
・Powfu「death bed (feat. Beabadoobee)」
・Lil Uzi Vert「P2」
ノイ村と申します。この度、新譜キュレーションの記事を担当させていただくことになりました。早速、今のポップミュージックシーンのメインストリームの中から「今のシーンを掴む」ことを目的にピックアップした5曲をご紹介します。
Lady Gaga「Stupid Love」
「ポジティブであり続ける」という覚悟
『アリー/スター誕生』(2018年)の大ヒットを経て、それまでのトリックスター的立ち位置を脱却し王道シンガーとしての地位を確立したかのように思えたLady Gaga。しかし、来たる新作『Chromatica』(4月10日発売予定)への布石となる「Stupid Love」では、再び鮮烈でド派手なビジュアルイメージに回帰。
前作からの続投となるBloodPopと、フューチャーハウスの立役者的存在であるTchamiがプロデュースした本楽曲は、彼ら自身による力強いハウスビートとGiorgio Moroderを彷彿とさせるベースラインを軸に据えた非常にダンサブルなディスコポップになっている。一方で、「Bad Romance」などに代表されるエレクトロポップ期に見られたノイジーなシンセの攻撃的な音色は抑えめで、とにかく徹底してポジティブな仕上がりだ。
このサウンドに至る背景には、今回のアルバムの制作プロセスも大きく影響しているだろう。PAPER紙のインタビューで彼女は自らが抱える線維筋痛やPTSDを例に出しつつ、「痛みを感じながらも踊り続け、その痛みを受容する」ことでアルバムを創り上げたと語っている。つまり、今の彼女にとって、「ポジティブであることが最大の攻撃」なのだ。〈Now, it's time to free me from the chain.(今こそ鎖から解き放たれる時)〉という言葉は、このサウンドの中で歌われるからこそ力強く、説得力を持って響くのである。
Bad Bunny x Jowell & Randy x Ñengo Flow「Safaera」
Bad Bunnyの編集力と貪欲さを証明する"異常な"4分55秒
新作『YHLQMDLG』が現在進行系でチャートを席巻中のBad Bunnyだが、その収録曲の中で特に彼の“凄さ”を証明しているのが「Safaera」である。
序盤こそ沈みこむベースラインを軸としたBPM84の重厚なレゲトンから始まるが、開始1分でBPM100前後までテンポを上げ、それまでの空気から一変して軽快なトラックへ変貌する。以降、さながらDJミックスのように楽曲が目まぐるしく変わり続ける。リズムチェンジはなんと10回近くに及び、終いにはMissy Elliot「Get Ur Freak On」やBob Marley「Could You Be Loved」といった不朽の名曲のサンプリングまで飛び出す始末。この異常な情報量が4分55秒のトラックに破綻することなく収まっており、その全てがリスナーのボルテージを上げるために完璧に機能している。歌詞も例によって非常に過激で、熱を上げ続けるトラックにさらに燃料を投下していく。
一つの楽曲中でトラックが変化する構造自体は、飽きさせない工夫が求められる現代では、Travis Scott「SICKO MODE」やFuture「Life is Good」を例にそれほど珍しいことではないが、さすがにここまで変わり続けるのは稀だ。数多もの現場を沸かせ、オーディエンスの動きを完璧に把握しているからこその手腕である。リスナーの欲望を把握した上で、さらに常識を超えていく。この貪欲さがBad Bunnyの強さであり、今のリスナーが彼を求める理由では無いだろうか。
Ava Max「Kings & Queens」
30年の時を超えて受け継がれるメロディ
サンプリングにおいて、より大胆な取り組みをしているのが、新鋭ポップアクトのAva Maxによる「Kings & Queens」である。一聴した誰もが、Bon Joviの特大ヒット曲「You Give Love A Bad Name」(1986年)を思い出すだろう。しかし、本楽曲で引用しているのは、その“原曲”であるBonnie Tyler「If You Were a Woman (And I Was a Man)」(1986年)だ。それも、両曲を手掛けたDesmond Childをプロデューサーに迎え入れた「公認」の引用である。
アートワークに込められたマチズモへの痛烈な皮肉が示す通り、本楽曲のテーマは女性へのエンパワメントで、80年代のテイストを感じさせるトラックの上で「女性無しでは生きていけない男性」への批判と一人で戦う女性への鼓舞が歌い上げられていく。不朽のメロディに合わせて〈If all of the kings had their queens on the throne, we would pop champagne and raise a toast.(もし全ての王がその王座に王女を座らせたなら、シャンパンをあけ祝杯を)〉と高らかに宣言するコーラスが、「本来、女性向けに作られた楽曲を、男性が歌うことで大ヒットした」原曲の構造自体へのアンサーのように思えるのは果たして考えすぎだろうか。
また、最近では珍しくギターソロが導入されているのも印象的だが、近年のリスニング環境でも埋もれないように音処理が施されており、ただ80年代の音楽を再現するだけではなく、的確に現代式にアップデートされていることが分かる。Dua Lipaを筆頭に80年代回帰の動きが目立つ今のポップシーンだが、約30年の時を超えて正式に当時のメロディを受け継いだAva Maxは、その決定打的存在とも言えるだろう。