Megan Thee Stallion、Doja Cat、Charli XCX……コラボやTikTokでポップシーン盛り上げる5作をピックアップ
コロナ禍の中で、ポップミュージックシーンもその影響を受けた楽曲が目立つようになってきました。今回ピックアップした5作品も、選出した時点では特に意識はしていなかったのですが、やはり何かしらの形で影響を受けており、改めてポップカルチャーの在り方が試される時期であると感じる次第です。
TikTokにポップ界の頂点が降臨。同郷の先輩・後輩によるコラボレーションが実現
「Savage Remix (feat. Beyoncè)」 / Megan Thee Stallion
現在、若手ラッパーのミーガン・ジー・スタリオンによる「Savage」がTikTokを中心にバイラルヒットを起こしている。その勢いはチャートにも現れており、5月9日付の全米ビルボードチャートでは自身の最高位である4位を記録。いよいよ2020年を代表するヒット曲になりつつあるという状況だ。
この「Savage」になんと、現行ポップシーンの頂点であるビヨンセが参加したリミックスバージョンが発表された。それも単にバースを提供するだけではない、楽曲全体に歌声やラップ、バックコーラスで参加するなどかなり本気度の高い仕上がりである。幼少の頃から彼女の大ファンであるミーガンにとって、今回のコラボレーションは明確にキャリアハイの瞬間と言えるだろう。大胆かつ貪欲な自身のスタンスを示した原曲のリリックを、本バージョンに際してリル・ウェインやD4Lを引用しながら自身の成功を主張する内容に大幅に書き換えていることからもその喜びが窺える。
また、かねてよりJay-Zとの「Apeshit」(THE CARTERS名義)などでその才能を示していたビヨンセのラップスキルだが、本楽曲でも激しいフロウの切り替わりを見事に披露しており、強烈な存在感を放っている。一方で〈Hips tick tock when I dance.〉というフレーズや、それに続いて振付を指示するリリックからは、原曲がブレイクするきっかけとなったTikTokを明確に意識していることも分かる。すでにTikTokでは本楽曲のダンス動画が多数投稿されており、その思惑は成功していると言えるだろう。
また、アートワークや、〈It's the Stallion and the B. H-Town, goin' down.(スタリオンとビヨンセより。ヒューストン、やってやるぞ。)〉というフレーズからも分かる通り、本楽曲は二人の故郷であるアメリカ・ヒューストンへのリスペクトを込めた楽曲でもある。両者ともに、ヒューストンの新型コロナウイルス対策活動を支援しており、今回のコラボレーションもその一環と言えるだろう。あらゆる意味で重要な楽曲である。新たな師弟関係となった両者の次なる動きにも期待したいところだ。
並行して巻き起こるTikTok発若手アーティストと先輩ポップアーティストのコラボ
「Say So Remix (feat. Nicki Minaj)」 / Doja Cat
「Savage Remix」と時を同じくして、TikTokを中心にバイラルヒットを起こし、2020年を代表するヒット曲へと成長したドージャ・キャットの「Say So」についても、あのニッキー・ミナージュが参加したリミックスバージョンが公開された。カラフルな色使いや大胆なファッションからも比較されることが多く、またドージャ・キャット自身が大ファンであることを公言していたニッキー・ミナージュだが、今回のコラボレーションでついに公認の先輩になったと言えるだろう。実は以前から、その類似性により両者のファンダム同士が衝突する光景も少なからず見られたのだが、本楽曲をきっかけにそのような動きが落ち着くことにも期待したい。
「Savage Remix」がトラック自体は原曲の要素を残していたのに対して、こちらはニッキーのバースで大胆にビートチェンジを行っており、ヒップホップ色を強めた仕上がりだ。新たに追加されたニッキーのリリックは平常運転といったところで、ナオミ・キャンベルやリル・ウェインといったビッグネームを引き合いに出しながら、それらと全く劣らない自身の存在感をアピールするという痛快な内容になっている。一方で、〈I got dressed just to sit in the house.〉(ただ家で座っているだけのために着飾っている。)といったコロナ禍の生活を窺わせるようなクスッとさせるラインも入っており、彼女らしいユーモアを楽しむ事が出来る。また、同曲のダンスビデオが公開されており、こちらもTikTokなどを中心に拡散させようという思惑を感じさせる。
さて、なぜこのタイミングで「Savage」と「Say So」という異なるヒット曲に対して、同時期に大物ポップアーティストが参加するリミックスバージョンの公開が行われたのだろうか? そこにはコロナ禍によりポップミュージックの需要がTikTokに集中しているという現状が挙げられる。基本的に自宅で待機し、車での外出も出来ないことから、ラジオや大規模な広告展開などの旧来のプロモーション手法がまるで意味を成さなくなり、結果として自宅からダンス動画をアップ出来るTikTokがポップミュージックの主戦場となったわけだ。今後も様々な動きがTikTokを中心に巻き起こっていくことになるだろう。
メインストリームとアンダーグラウンドを繋ぐ、最も自由なポップ・アイコン
「claws」/ Charli XCX
今、最も自由にクリエイティブを満喫しているポップアイコンと言えばチャーリーXCXが挙げられるだろう。2016年にSOPHIEとタッグを組んで制作した「Vroom Vroom」以降、彼女は常に先鋭的かつポップなクリエイターとタッグを組みながら楽曲制作を続けている。現在は、『how i’m feeling now』と題した自粛期間中のプロジェクトに力を入れており、今回発表された「claws」もそのプロジェクトの一部なのだが、本楽曲においてもその制作体制が継続されていることが分かる。
今回「claws」でプロデューサーとしてフックアップされたのは、2019年にアンダーグラウンドシーンで脚光を浴びた100 gecsのディラン・ブレイディーである。フューチャーベースを軸としつつもピッチシフトやオートチューンで過剰に歌声や音色を加工したり、かと思えばハードコアやデスボイスを取り入れるといった極端に振り切ったサウンドが特徴的な100 gecsだが、「claws」では彼らの軸にあるポップセンスが上手く抽出されており、あくまでチャーリーXCXらしいキャッチーなポップソングに仕上がっている。とはいえトラック自体は100 gecsらしい金属的なビートを中心に奇妙な音色のオンパレードになっており、少なくともチャートヒットの主流からは大きく外れたサウンドであることは間違いないだろう。しかし、だからこそ一度ハマれば病みつきになるほど本楽曲の中毒性は高い。
前述したSOPHIEは、当時こそアンダーグラウンドな存在だったものの、メインストリームからのフックアップを経て、今ではLOUIS VUITTONのパリコレクションに起用されるほどの成功を収めている。チャーリーXCXのようなメインストリームとアンダーグラウンドの架け橋となる存在は、インターネットを中心に膨大な音楽が作られる現代において特に重要な存在と言えるだろう。彼女の動向は「今、面白い音楽」を追いかける上での目印とも言えるのだ。