Laura day romance「好きなものと並べても恥ずかしくない音楽を」 新曲「heart」に至るまでの軌跡

洋楽の影響を受けながら、それを自分たちの言葉と音楽に昇華する。はっぴいえんどやシュガー・ベイブを始め、様々なバンドがそうやって独自のサウンドを生み出してきた日本のロックの系譜に連なるバンド、Laura day romance(略称:ローラズ)。洗練されたポップセンスとオルタナティブな冒険心を感じさせるサウンドでインディーシーンで注目を集めていた彼らが、初のタイアップ曲である新曲「heart」をリリースした。今回リアルサウンドでは、メンバーの3人、井上花月(Vo)、鈴木迅(Gt)、礒本雄太(Dr)にインタビュー。バンドの軌跡を振り返ってもらいつつ、彼らが作品に込めた想い、そして、これからについて語ってもらった。(村尾泰郎)
テーマをあえて共有しないことで生まれる解釈の幅

ーー3人は大学の音楽サークルで出会ったそうですね。
鈴木迅(以下、鈴木):コピーバンドのサークルにいたんです。いろんな曲をコピーして楽しもうぜ! っていうサークルでした。
ーー当時はどんなバンドをコピーしてたんですか?
鈴木:僕は山下達郎さんとか。かっちゃん(井上)はチャットモンチーとか……。
井上花月(以下、井上):CHAIとか。
礒本雄太(以下、礒本):僕は別のサークルにいて後からバンドに入りました。
ーーそこでは、例えばどんな感じの曲を?
礒本:60~70年代のルーツ・ソウルとかファンク、R&Bですね。そこからAORとかジャズも聴いたり。
ーー3人とも趣味はバラバラだったんですね。1st EP『her favorite seasons』に収録された「lovers」のMVを観ると、部屋の壁にThe Beach Boys、The Beatles、Pavement、松任谷由実など様々なレコードが並んでいて、いろんな音楽を聴いていることがわかります。
鈴木:あのビデオでは自分たちの影響源を打ち出しておこうと思ってメンバーが持っているレコードを並べたんです。The Beach BoysやThe Beatlesは親の影響で子供の頃から聴いてましたね。渋谷系の音楽も親から勧められて聴いたりして。
井上:私は大学に入るまでは日本のポップスを聴いてたんです。しっくりくる洋楽に出会えてなかったんですよね。でも、大学に入ってからWhitneyとかElliott Smithとか、USインディーのアーティストが好きになって洋楽ばかり聴くようになりました。
ーーUSインディーや洋楽からの影響が大きいのはバンドの曲からも伝わってきますね。鈴木さんがメンバーを集めたそうですが、井上さんに声をかけたのは、井上さんのどんなところに惹かれて?
鈴木:どんな曲をコピーしても自分を曲げない芯の強さを感じたんです。原曲に寄せすぎずに成立していて、どこにでもいけるボーカリストなんだろうなって思いました。
ーー井上さんは誘いを受けてどう思われました?
井上:自分がやってたオリジナルバンドが休止したタイミングで声をかけられたんですけど、就職は考えていなかったし、話に乗っておこうかなと(笑)。あと、迅くんから送られてきたデモがめっちゃ良かったんです。これなら大丈夫だって思いました。
ーー曲の魅力が大きかったんですね。では、鈴木さんが礒本さんに声をかけた理由は?
鈴木:正直いうと、自分が弾き語りで曲を作っていたので、パッと指示してパッとできる人がいいと思ったんです。こっちが投げたことに、ある程度対応してくれる人っていうのが大きかったですね。
礒本:よろず屋です(笑)。
ーー心強い存在ですね。バンド結成当時、鈴木さんはどんな音楽を目指していたのでしょうか。
鈴木:当時、インタビューでよく例えに出していたのはシュガー・ベイブでした。ツインボーカルで、エネルギーがあって、洋楽に影響を受けている。そういうところが当時の自分に刺さったんです。
ーーそういえば初期の頃、ローラズはツインボーカルでしたね。バンドは2020年に1stアルバム『farewell your town』を発表しますが、しっかりと作り込まれた楽曲とアレンジから洗練されたポップセンスが伝わってきました。
鈴木:当時、同期のバンドが同じくらいのタイミングで1stアルバムを発表したんですけど、ライブ感を出した作品が多かったんです。でも、そういう方法論は自分たちの強みではないと思ったんですよね。
井上:当時は「1stアルバムなのに成熟した音楽ですね」って言われることが多くて。自分ではそういう意識がなかったので、そんな風に聴こえるのかって意外でした。自分はむしろフレッシュだと思っていたので。
ーー架空の街を舞台にしたコンセプトアルバムだったことも「成熟した作品」という印象を与えたのかもしれませんね。
鈴木:当時、ストリーミングで音楽を聴くことが主流になりつつあるなかで、アルバムにシングルや既発曲を入れるのは意味がないと思ったんですよね。アルバムだからこそやれることがしたい、と考えてコンセプトアルバムにしました。
礒本:僕はアルバムのテーマとか、そういうものは一切聞いてなかったんです。1stのデモを聴いた時は、以前観た、窓の外から見える日常の風景の移り変わりを描いた短編映画を思い出しました。その映像をイメージしながら演奏していましたね。今も曲に関しては質問したりせずに、自分なりの解釈で演奏しています。メンバーの足並みが揃いすぎると曲の感情がトゥーマッチになってしまう。それよりもフラットな気持ちで聴いてもらったほうが、聴く人によっていろんな解釈が生まれて良いんじゃないかと思うんですよ。
ーー礒本さんなりの解釈を混ぜることで、曲に余白を作るわけですね。井上さんはどんな気持ちで歌詞に向き合ったのでしょうか。コンセプトアルバムということは、歌い手としてアルバムのテーマや歌詞の内容を、ある程度把握しておく必要があると思うのですが。
井上:迅くんが歌詞について何も教えてくれないので最初は戸惑いました。自分なりに解釈してほしい、ということだと思うんですけど、当時はまだ迅くんとの間に距離があって、迅くんが何を考えているのかわからないことの方が多かったので。
ーー歌詞について話をするのはすごくセンシティブなことですしね。
井上:そうなんですよ。だから難しくて。ここは歌いにくいからこういう風にしてほしい、とか、何回もやりとりして、時には喧嘩もしてアルバムを作りました。私の歌い方も定まっていなかったし、当時の空気感がそのままアルバムにパッケージされていて、それはそれでみずみずしくて良いな、と今は思うんですけど。
鈴木:歌詞に関しては、いったん自分で形にした後はメンバーそれぞれで表現してほしいと思っていて。そうじゃないと、バンドがただの再生装置になってしまって一人でやるのと変わらないじゃないですか。だから、メンバーと揉めるのは必要なことなんですよね。最初の頃、僕のOKラインが今より狭かったのも揉める理由ではあったんですけど。
2ndアルバム『roman candles|憧憬蝋燭』で迎えた転換期



ーー任せたいけど任せきれない、というのは、井上さんが言う距離の問題もあったんでしょうね。2ndアルバム『roman candles|憧憬蝋燭』では、内省的でアコースティックな質感とオルタナ的な歪みを感じさせるサウンドに変化します。これは意図的な変化だったのでしょうか。
鈴木:当時、USインディーのバンドを熱心に追いかけていたんです。アルバムの前に出した「fever」というシングル曲が初期のバンドサウンドを思わせる曲で、この路線はこれでいったんおしまいにして、今自分が聴いている音楽にどれだけ近づけるのかをアルバムでやってみようと思ったんです。それでみんなには「次はすごく渋い作品になります」と言った気がします。
礒本:そうそう。言ってたね。
ーー当時ハマっていたバンドというと?
鈴木:Big Thiefがとにかく好きでした。固定観念に縛られていない音楽だと思ったんです。バンドで「せーの」で音を出す時って、とりあえずエイトビートを打つことが多いんですけど、彼らは音を出す直前まで悩んでいる感じがする。そういうところが面白くて。アルバムの曲を作る時には、そういう当たり前に思えることを全部解体して、これはいる、いらない、というのを細かく考えることでアレンジが出来上がりました。
礒本:2ndを作っている時に、迅がやりたいことが明確にわかったんです。全部理解したというわけではないんですけど、どんなビートを叩いて欲しいと思っているのかとか、迅の考え方の方向性みたいなものがわかった。これまでこういう音楽をやるバンドでやったことがなかったので、最初の頃は探りながらだったんですけど、2ndからこのバンドで続けていけると確信できたんです。
ーー2ndは礒本さんにとって重要な作品だったんですね。そういえば、この作品からボーカルは井上さんだけになりますが、井上さんはどんな気持ちで歌に向き合っていたのでしょうか?
井上:2ndあたりから無理なく共感できる歌詞が増えた気がします。リアルな手触りの歌詞が増えたんですよね。私はそういう歌詞が昔から好きだったので歌いやすくなりました。
ーー歌詞の変化には何か理由があるのでしょうか?
鈴木:最初の頃の歌詞ってファンタジーっぽく捉えられることが多かったんですよ。自分は生活の中で感じた焦りや不安を曲にしていたのに、それが伝わっていないことがもったいない気がして、これまでよりも切実さを感じる歌詞にしたいと思ったんです。そして、すごくエモーショナルなアルバムにしたいと思ったんですけど、気づいたらエネルギーのベクトルがどんどん内側に向かっていって、内側は燃えているけど外側は穏やか、という不思議なバランスの曲になった。それをみんなが良い形にしてくれました。
ーー『roman candles|憧憬蝋燭』発表後、配信限定の3曲入りEP(『Seasons.ep』『Awesome.ep』『Works.ep』『Sweet.ep』)を3カ月おきに4作続けて発表します。アルバム一枚作れるだけの曲数ですが、アルバムではなくEPにしたのはどうしてですか?
鈴木:シングル級のインパクトがある曲を4曲出したかったんです。そして、全部違うタイプの曲にして自分の表現の幅を広げたかった。でも、1曲だけだと新しい方向性が伝わり切らない気がして、3曲でバランスを取りながら「こういうこともやれます」というのを押し出して肩を鍛えたんです。
礒本:「とりあえず、これやっといてくれない?」って何曲か送られてくるんですけど、いろんなジャンルからエッセンスを抽出していて驚きました。ブラジル音楽とか民族音楽のリズムを取り入れてみたりして面白い1年でしたね。
ーーそれだけ音楽性が多彩だと歌うのも大変ですね。
井上:1stくらいまで自分の歌い方があまり定まってなくて、定めなきゃいけないなってずっと思ってたんです。でも2ndあたりから、コピーバンドサークルでやってたみたいに、自分の声で歌えばどんな歌い方でもよいのかもって思い始めて。それで、EPシリーズの時は、それぞれの作品にあった歌い方をしたつもりでした。でも、3カ月に1枚出すからスケジュール的に辛くて。迅くんもちょっと病んでたよね(笑)。
鈴木:過酷だったね(笑)。
