sajou no hanaに聞く、三者三様な感性から生まれるアニソンの核 『ダンまち』『超電磁砲』ED曲制作を振り返る

sajou no hana、3人だからこそ提示できるアニソン

メンバーが考える、アニメとバンドの幸福な関係とは?

――実際の曲で、「この歌詞はsajou no hanaならではだな」と感じるものはありますか?

渡辺:僕の場合、作家としての提供曲では、歌詞として文脈や意味ができる前に、そもそも単語として省く言葉が結構あるんです。たとえば、sajou no hanaとして担当した『とある科学の一方通行』のEDテーマ「Parole」では、歌詞に「脳」という言葉を使っていますけど、これって人によってはグロテスクなイメージを想像する人もいるので、提供する方によっては「これは外そうかな」と思う言葉なんです。でも、sajou no hanaの曲は僕ら自身なので、そういう言葉をそのまま使うような感覚があります。『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII』のEDテーマ「Evergreen」だと、サビ前の〈生きた〉もそうですね。この言葉は使い方によっては重くなりすぎるので、「これはやめておこうかな」という判断になることも多い言葉です。そんなふうに、より人間性が垣間見える歌詞が増えているような気がします。

キタニ:僕は歌詞の書き分けをあまり意識したことはないので、今、翔さんの話を聞いて「器用な人だなぁ」と思いました(笑)。

sana:昔からアニメを見るのが好きだったので、『とある科学の超電磁砲』も1期から観ていて。『とある科学の超電磁砲T』のEDテーマとして「青嵐のあとで」を歌うときにも、キタニさんが書いた〈例え十年先も二十年先も、きっと、ずっと、忘れられないんだよ。〉という歌詞に「ああ、10年前観てたなぁ……!」と思ったんですけど、一方でタイアップ曲ではないものだと、よりとげとげしい言葉を使っている、心が痛くなるような曲もありますよね。

渡辺:そうやって、色んなものができるのがいいな、と思います。もちろん、タイアップじゃない曲のすべてを尖ったものにする気はないですけど、同時にノンタイアップの曲はsajou no hanaの魅せられていない部分を補足する場所になったり、新しい実験をする場所になったりするというか。新しい挑戦をするためにはそういう場所が必要ですからね。

――また、sajou no hanaの曲の場合、アニメのタイアップ曲でありつつも、何も知らない音楽リスナーにも訴えかけるような楽曲が多いような気がします。いい意味でアニソンのルールに則りすぎない雰囲気がある、と言いますか。

キタニ:やっぱり、作品に寄り添うことはもちろんですけど、音楽だけが好きな人にも届いてほしいし、アニメだけを知っている、僕らのことを知らない人にもちゃんと届けられるようにしたいと思っていて。そのバランス感は、僕はすごく考えていたりしますね。

渡辺:一本柱って単純に危ないですし、アニメとのタイアップをするにしても、どちらも対等な場所に立っていられた方が、相乗効果が生まれると思うんです。「曲がすごくよかったから、アニメの格が上がった」作品って結構たくさんあると思うんですけど、僕らとしては、担当させてもらうからには「そういうものを目指したい」と思っていて。アニメがなくても、その曲自体が既に素晴らしいというものにもする、ということは意識しています。

――そういう曲にするために、何か意識していることはあるんですか?

渡辺:みんなが「いい!」と思う瞬間って、やっぱり感情が動いたときだと思うんですね。なので、曲がいいというのは大前提ですけど、そのうえで、歌詞の面でも、「アニメの作品としての魅力」と、「僕が思うsajou no hanaらしさのようなもの=sajou no hanaを人にたとえた際の人間像のようなもの」と、「リスナーさんの持っている人間性」の3つを繋げていくことを大切にしていますね。そうなったときに気持ちが伝わるのかな、と思うので。

(sajou no hanaが)安心できる場所に変わっていきました(sana)

ーー「Evergreen」の制作風景についても詳しく教えてもらえると嬉しいです。

渡辺:この曲はまず、アニメの制作チームの方々から、「本編はシリアスで重い雰囲気がある分、EDは爽やかな、それを浄化するような形で終わってほしい」という話をいただいて、そこに向き合いました。なので、sajou no hanaとしては、まずは「どうしよう?!」と考えたんです。爽やかな曲は直前の「青嵐のあとで」でやったので、そこで片足を踏み込んだ先に、もう一歩進んでいくような感覚でした。

――「憧れが少年を成長させていく」という『ダンまち』シリーズの根本にある魅力も感じられますし、同時にsajou no hanaの曲らしい部分も色々な部分で感じました。

渡辺:その繋がりをどうやってつくっていこうかと考えていったんですけど、ベル(主人公)はかなり強い人物で、ものすごいスピードで成長していく、あの世界の中でも異質な存在だと思うんです。でも、それって現実でもある光景で、たとえば「出る杭は打たれる」ということは現実でも多くの人が経験すると思いますし、知らず知らずのうちに「この人はこれが得意だ」という誰かの評価を背負うこともありますよね。そういうことが、物語の中で足かせになる瞬間があるので、そういうものにどう向き合っていくかを考えて曲をつくっていきました。

――この曲の場合、アレンジやレコーディングの際に工夫したことはありますか?

渡辺:今回はすごくシンプルだったよね?

キタニ:今回は翔さんの指示に対して忠実に仕上げていった感覚です。普段は、翔さんが投げてくれたものに、「俺はこういう方がいいと思うな!」というアイデアを結構入れるんですけど、今回は考え方も工程もシンプルでした。やっぱり、純粋にメロディのよさを伝えることが大事な曲だったので、それを邪魔したくないと思っていたんです。渡辺翔という人が書く曲に全幅の信頼を寄せているので、自然体でアレンジをしていきました。

sana:私も、今回はすごく自然体で歌わせてもらいました。『ダンまち』自体が可愛い女の子がたくさん出てきたりする、かなりきらびやかな作品だと思うので、さっきも翔さんが言われていた透明感を表現できるよう歌わせていただきました。あと、今回、歌詞もジーンと来てしまって。ベルくんは確かに強いですけど、結局頑張れるのは、仲間がいるからじゃないですか。そういう部分も結構入っていて、「自分を認めてくれる人たちがいるから頑張れる」というものになっているところが、すごく好きですね。

――お2人とも、今回は曲のよさをそのまま生かすことを考えていたんですね。

sana:あっ! でも、サビ前の〈生きた〉の部分はすごく苦労した気がします。

――先ほど渡辺さんがsajou no hanaならではの歌詞と言ってくれていた部分ですね。

渡辺:僕にはそこが一番重要だったので、プリプロの段階からかなりこだわっていたんです。

sana:この部分は、鬼のようなファルセットから急にスッと大事な言葉が入ってくるので、歌うのもすごく難しいんですよ。緊張しました(笑)。

渡辺:僕は曲をつくったら、あとは「頑張ってください!」と言うしかないので……本当に申し訳ない(笑)。

――sajou no hanaがはじまって2年ほどになると思うのですが、結成当初と比べて、みなさんそれぞれにとってこのバンドの存在感は変わってきていると思いますか?

渡辺:変わってきていると思います。最初は「この活動をはじめることで、他に支障が出てしまってはいけないな」とか、色んなことを考えていたんですよ。でも今は、「これがあるからこそ」に変わったというか。

キタニ:分かる! 自分の中の立ち位置としても安定してきたのかな、と思います。

sana:私も同じです。最初はすごく不安で、「sajou no hanaのボーカルとしてどう存在していけばいいんだろう?」「もっと前に出た方がいいのかな?」「そうじゃない方がいいのかな?」と、色々考えていて。でも、色んなことを経験して、もっと安心できる場所に変わっていきました。だからこそ、「ライブではこうしたいな」というアイデアや、これから挑戦してみたいことが、色々と出てきているんです。

――へええ。言える範囲で教えていただくことはできますか?

sana:今はなかなかやりづらい環境ですけど、私の場合は、ライブにまつわることですね。コミュ障なので「お客さんとはライブで初対面になる人もいる」って考えてしまって、これまではそこで勝手に壁をつくってしまっていた部分もありました。でも、今後はそういう壁を突き破っていきたいし、もっとライブの一体感が出せるように考えていきたいですね。

――渡辺さんやキタニさんも、バンドのこれからについて考えていることはありますか?

渡辺:まぁ、未来のことはあまり明確にはせずに、その時々に合ったことや、その時々の表現方法で、自分たちがいいと思えることをどんどんやっていきたいと思うんです。sajou no hanaは、そういう場所でありたいな、と。「芯がない芯」のようなイメージというか。

キタニ:いい言葉!

――つまり、軟体動物は軟体動物であることがアイデンティティである、というのと同じで、「これからもずっと変わり続けていく」ということですね。

渡辺:そうですね。急に陸に上がって、全力でEDMをやりはじめることはないと思いますけど……(笑)。自分たちらしい方法で、これからも変わり続けていきたいと思っています。

『青嵐のあとで』

■リリース情報
『青嵐のあとで』
発売中

<収録曲>
青嵐のあとで(TVアニメ「とある科学の超電磁砲T」新エンディングテーマ)
作詞:キタニタツヤ
作曲:キタニタツヤ
編曲:キタニタツヤ・渡辺翔

ここにいたい(TVアニメ「とある科学の超電磁砲T」15話挿入歌)
作詞:渡辺翔
作曲:渡辺翔
編曲:キタニタツヤ

Hypnosis
作詞:キタニタツヤ
作曲:キタニタツヤ
編曲:キタニタツヤ

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅢ(スリー)』ビジュアル(©大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち3製作委員)

■アニメ情報
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅢ(スリー)』
<放送情報>
10月2日(金)24:30~
TOKYO MX、サンテレビ、KBS 京都、BS11、ABEMA
10月3日(土)23:30~
AT-X

<配信情報>
10月4日(日)より dアニメストア、U-NEXT、アニメ放題、Gyao!、バンダイチャンネル、niconico、VideoMarket、dTV ほかにて配信開始予定

<スタッフ>
原作:大森藤ノ(GA文庫/SB クリエイティブ刊)
キャラクター原案:ヤスダスズヒト
監督:橘 秀樹
シリーズ構成:白根秀樹
キャラクターデザイン:木本茂樹
音響監督:明田川 仁
音楽:井内啓二
オープニングテーマ:井口裕香「over and over」
エンディングテーマ:sajou no hana「Evergreen」
プロデュース:EGG FIRM/SB クリエイティブ
アニメーション制作:J.C.STAFF
アニメ公式サイト

sajou no hana公式サイト

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