『青嵐のあとで』『Evergreen』インタビュー
sajou no hanaに聞く、三者三様な感性から生まれるアニソンの核 『ダンまち』『超電磁砲』ED曲制作を振り返る
様々なアーティスト/アニメ作品などに楽曲を提供する人気作家・渡辺翔が中心となり、キタニタツヤ、sanaとともに結成した3人組バンド、sajou no hana。彼らが2020年10月より放送開始となるTVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII』のEDテーマ「Evergreen」を担当する。
2人のソングライターを持ち、バンドでありながら、同時に“クリエイター集団”と呼ぶ方がしっくりと来る独特の佇まいが印象的な3人のバンド哲学や、『とある科学の超電磁砲T』のEDテーマ「青嵐のあとで」、そして新曲「Evergreen」の制作過程について聞いた。(杉山仁)
sajou no hanaメンバーに聞く「バンドらしさ/らしくなさ」
――もともとバンドを組んだことがない渡辺さんが、sanaさんとキタニさんに声をかけた、という結成の経緯も関係しているのかもしれませんが、sajou no hanaは「バンドらしさ」と「バンドらしくなさ」を併せ持ったユニークな存在のように感じます。みなさん自身は、自分たちの「バンドらしさ/らしくなさ」についてどんなことを感じていますか?
渡辺翔:少なくとも、軸となる音楽性であったり、ライブでの見え方だったりは「バンドらしいのかな?」とは思っています。でも、僕はsajou no hana以外にバンドを組んだことがないので、比べるものがないし、「バンドあるある」のようなものも分からないんですよ。
――sanaさんも、もともとはソロシンガーとして活動しようとだけ考えていて、バンドで音楽をするとは思っていなかったそうですね。
sana:そうですね。私も、sajou no hanaがバンドっぽいかというと、あまりそうは思っていなくて(笑)。ただ、自分だけじゃなくて、メンバーでステージに立つ安心感はすごく感じます。やっぱり、ソロシンガーだとステージ上は孤独なので。
――では、もともとバンド経験があったキタニさんから見るとどうでしょう?
キタニタツヤ:確かに、僕はライブハウスに通って活動するようなバンドをやっていましたけど、そのときって自分だけで曲をつくって、それを演奏者に渡して弾いてもらっていたので、「一緒に曲をつくる」というバンドっぽい経験って、実は僕もしたことがなかったんです。なので、誰かと協力して曲をつくるという経験はsajou no hanaがはじめてでした。
――なるほど。つまり、実は全員がベーシックなバンドを経験していなかった、と(笑)。
全員:(口々に)そうなんです(笑)。
――では、活動をはじめてからバンドのよさを実感したという感覚ですか? 何かそういう魅力を感じた機会があれば教えてもらえると嬉しいです。
キタニ:たとえば、「青嵐のあとで」だと、僕が曲をつくって、イントロをどうにか変えたいと思っていたときに、それを翔さんに投げて、「後はどうにかして!」ということができるというか。そういうのってバンドのいいところですよね。あと、ライブの面ではsanaさんと翔さんが中心になってつくっていってくれたりもするので、それぞれの得意な部分を活かして分業できているのも、バンドならではの良さなんだと思います。
渡辺:あくまで僕の中での勝手なイメージなんですけど、「ユニット」というと、誰か中心になって引っ張っているイメージがあるんです。でもsajouの場合は、メンバーこそ僕が集めましたけど、実際はそれぞれのメンバーがそれぞれを横目で見ながら、「じゃあこうしよう」と読み合っている感覚があって、トップダウンではないと思っていて。
キタニ:つまり、「三権分立」みたいな感じで――。
渡辺:「思ったことは言おう」という関係なんです(笑)。その分、作業が大変になることもありますけど、ひとりよりも3人でアイデアを出し合った方が、最終的にはいいものができる可能性って高くなると思うんですよ。
sana:そもそも、翔さんとキタニさんがつくる曲ってそれぞれに魅力が違うので、私のところに2人の曲が一緒に届いた時点でも、毎回それぞれが全然違う雰囲気のものになっていて。そうやって色んな曲ができるからこそ、歌としても新しい挑戦ができる曲が増えていると思います。私の場合、もともとの歌い方は(sajou no hana結成前に37名義で担当した)『モブサイコ100』のようなものなんですけど、sajou no hanaがはじまってからは、翔さんやキタニさんに色々とアドバイスをもらったりして、歌い方もだいぶ変わってきました。
メンバーとは「ネットで繋がった友達」のような距離感(キタニ)
――みなさんがそれぞれに影響を受け合うというのは、とてもバンドらしいですね。
渡辺: sajou no hanaでの経験が、個人での作家業に影響を与えることも多いんです。言葉にするのは難しいんですけど、楽曲の引き出しが多くなったというか、曲への向き合い方が変わってきた気がするというか……。
キタニ:へええ。
渡辺:メロディにしても、自分が好きなメロディの構築の仕方をアップデートする速度が、以前より早くなったように感じます。
――刺激をもらえる機会が増えたからこそなのかもしれません。
渡辺:そうですね。それはすごく感じます。
キタニ:僕の場合は、これまでつくりたくても表現する場所がなかった音楽ができるようになったのが大きいです。仕事として曲を書くときはテーマに沿って書きますけど、それは自分の名義とはまた違うものですし、かといって「シンガーソングライターとしての自分が歌う曲としては違うな」と思っていた曲のアウトプット先が増えたことが、精神衛生上すごくいいな、と。今は「こういう曲はこっちでやりたい」「こういう曲はこっちでできそう」と、色々な場所で表現できる感覚があって、それによって自分だけの作品にも張りが出ますし、sajou no hanaで身に着けたスキルが他の場所で役立つこともあるなぁ、と思います。
――sanaさんはどうでしょう?
sana:私の場合は、音楽の聴き方がすごく変わったな、と思います。私はもともと、音楽を聴くときにも、ボーカルだけに集中して「歌」を聴くタイプだったんです。でも、sajou no hanaで楽器隊のレコーディングに参加させてもらったりしたことで、聴ける範囲が広がってきたというか、リスナーとしての音楽の聴き方が広がったのをすごく感じます。
――メンバー間でそれぞれの好きな音楽を共有することもありますか?
渡辺:あからさまに「これ聴いてよ!」と伝えたりはしないですけど、たとえばキタニくんと作曲の話をするときに、「こういうものを意識した」と共有することはありますね。それに、もともとキタニくんの場合、ソロ名義の曲を聴いていても、「こういう音楽が好きなんだろうな」ということがすごく伝わってくるので。そういうものは、僕が勝手に受け取っていたりします。でも、好きな音楽を一番教えてくれるのはsanaちゃんかもしれないですね。
――つい最近、AuDeeでのオーディオコンテンツ「sajou no hanashi」でも、「メンバー間であまりコミュニケーションを取っていないかも」という話をされていましたが、sajou no hanaの音楽を聴かせてもらっていると、作品ごとにバンドとしての一体感や楽曲の魅力はどんどん強固になっているように感じます。にもかかわらず、みなさん自身はそれほどコミュニケーションを取っているわけではない、というのはとても不思議です(笑)。
sana:それは……私たち、コミュ障なので(笑)。
渡辺:全員、自分からは人を誘わないタイプなんですよ(笑)。
――じゃあ、言葉でやりとりをしなくとも、お互いの絆が強固になっている、という……?
渡辺:「そうだったらいいな」と思っていますけど……(笑)。
キタニ:「……でも、どうなんだろうなぁ?」という感じです(笑)。
sana:あはははは。
――では、一方で、みなさんが思うsajou no hanaの「バンドっぽくなさ」と言いますと?
キタニ:まさに今みたいなところですよね(笑)。sajou no hanaって、バンドというよりも、たまに会うけれど、やりとりは全部オンラインで済ませる「ネットで繋がった友達」のような距離感だと思うんです。あとは、バンドって、基本的に同じ音楽が好きな、同じタイプの人間が集まりやすいと思いますけど、僕らはそういうところも違うのかな、と思います。出身が全然違うというか。でも、その方がいいことってたくさんあると思うんですよ。違うものを好きな人間が集まった方が、色々な化学反応が起こりやすいと思うので。