「おジャ魔女カーニバル!!」が今なお愛され続ける理由とは? 緻密な楽曲分析、J-POP/アニソンシーンの流行などから考察
映画『魔女見習いをさがして』の予告編が8月18日に公開された。テレビアニメ『おジャ魔女どれみ』(朝日放送・テレビ朝日系)20周年記念作品となる本作の予告映像には、「魔法玉」や「マジカルステージ」といったおなじみのフレーズが登場するほか、当時の主題歌「おジャ魔女カーニバル!!」もBGMで使用されており、ファンの感涙を誘っている。
この楽曲を2020年現在の耳で改めて聴きなおしてみると、のちの音楽シーンにおけるトレンドのひとつを先取っていたかのような、先進的な要素を内包していたことがわかる。それが具体的にどういったポイントなのか、ひとつずつ確認していこう。
歌メロの独特すぎるリズム感
アニメ『おジャ魔女どれみ』に親しんだ時期が幼少期に当たるファンが大多数であろうことから、その主題歌である「おジャ魔女カーニバル!!」が持つ音楽的偏差値の高さに気づけていなかった人も少なくないはずだ。まずは大人となった現在の視点で、楽曲構造を論理的に捉えなおすところから始めてみよう。
BPMは148。普通の感覚で言えば「ちょっと速め」程度のテンポ感だが、歌メロに16分音符が多用される楽曲として考えた場合は「かなり速い」と言っていい。イントロのフレーズや歌い出しからしていきなり16分音符の連続で、相当意識的にスピード感を強調していることがわかる。歌詞で言うと、〈どっきりどっきりDON DON!!〉の部分には促音や撥音が含まれるため16分音符感が多少和らいでいるものの、続く〈不思議なチカラが〉に至っては8つ連続する16分音符すべてに子音+母音で構成される音韻が当てられた。このことで「えらく早口な歌」という印象を決定づけている。
歌メロのリズム的には、Aメロ後半(〈きっと毎日が〜〉)およびBメロ(〈教科書みても〜〉)でいったんペースダウンするものの、サビでふたたび畳み掛けてくる。しかも、そこまでほとんどの16分フレーズが平板なメロだったのに対し、サビ中の〈ピリカピリララ〉や〈ガミガミおじさん〉〈火山が大噴火〉といった部分に関してはメロディラインが細かく上下するため、さらに“忙しさ”が増す仕組みだ。音階的にも、〈ピリカピリララ〉のメロでは唐突にハーモニックマイナースケールが、〈ドキドキワクワクは年中無休〉にはメロディックマイナースケールがしれっと使われており、メロのスピード感にさらなる滑らさを加えている。
シンプルな要素を複雑に構成
サウンド面では、一般的なバンド楽器群¥を核としつつ、ストリングスを大々的にフィーチャー。さらにブラスやアナログシンセも絡んでくるなど、比較的オーソドックスかつゴージャス寄りのポップス系編成と言える。全体的にハイテンションなアレンジで、とくに躁じみたストリングスのフレージングには鬼気迫るものがある。シンセ類をメインに据えていないわりにテクノっぽさも漂うサウンド感だが、これは右チャンネルで機械的かつ執拗に繰り返される「チキチー、チキチー」というハイハット系の音色が印象的すぎるせいだろう。また、シンセベース系の音色で規律正しくボトムを支えるベースと、手数は多いものの温度感の低いドラムによるリズム隊も重要な要素だ。
和声は比較的オーソドックスな作りではあるが、それでも注目すべき点は多い。イントロは一般的な長調の循環コードで展開しながらも、歌への導入となる最後の和音がオーギュメントと呼ばれる特殊な和音(ドミソ和音のうちソを半音上げたもの)になっている。Aメロも前半はシンプルな長調の循環コードだが、後半(〈きっと毎日が〜〉パート)ではクリシェ(半音進行)と呼ばれる少し特殊なコード進行が登場する。そこから橋渡しとして機能する中間的な調性のBメロが続き、サビでは完全に短調となる。
部分部分を個別に見ると、クリシェを除けばほぼ技巧を凝らさないストレートでフレンドリーな作り。その一方で、全体の流れとしてはそれらが目まぐるしく展開し、曲想が刻々と変化していく構造になっていることが聴き取れるだろう。要素をシンプルにすることで子供たちが親しみやすいように、しかし展開をスピーディかつ明確にすることで飽きさせない配慮がなされているということだ。現代であれば、それを実現するために“無茶な転調”が使われがちなところではあるが、「おジャ魔女カーニバル!!」では転調が一切行われておらず、E♭メジャー(Cマイナー)という単一の調性のみでこれだけ多彩な展開を作り出していることになる。その構成力の高さは特筆に値する。