早見沙織、降幡愛、内田雄馬、『Paradox Live』……多彩な音楽ジャンル味わえるアニメ/声優ソングの注目作
続いては、内田雄馬のニューシングル『Image』をピックアップ。2018年にアーティストデビューして以来、爽快なロックサウンドを軸に数々のヒットを放ってきた彼ですが、一方で1stアルバム『HORIZON』(2019年)収録の「ERROR」「VIBES」や、シングルのカップリングなどでダンサブルな楽曲にも積極的に取り組み、ライブでもダンサーを従えたパフォーマンスを行ってきました。その流れを受けるかのように、今回はシングル表題曲としては初のダンスナンバーに挑戦。彼の楽曲を多数手がけているShogo×早川博隆コンビが提供したこの「Image」は、EDM以降の現代的なポップスの意匠を纏った、ハイクオリティーなダンスチューンに仕上がっています。音数を絞ってストイックに進んでいくA・Bメロから、サビで一気にイメージを爆発させるような展開もエモーショナルのひと言。クールさの中に情熱を宿した歌声、MVでのしなやかなムーブを含め、見どころ・聴きどころが満載の一曲です。
カップリング曲のうち、「SummerDay」もまたダンス欲を刺激するナンバー。こちらはハウスミュージックを基調とした夏らしい解放的なサウンドになっていて、サックスの印象的なリフ、跳ねるようなピアノ、サビ後半などでトロピカルに変化するリズムなど、とにかく楽しくなる要素だらけです。伸びやかな歌声の魅力を存分に楽しめるバンド曲「You Are Special」と共に、表題曲とはまた違ったアーティスト・内田雄馬の側面を知ることができるのではないでしょうか。
また、近年は『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』(以下『ヒプマイ』)のヒットの影響もあってか、アニメ/声優の楽曲においてもラップソングが増加傾向にありますが、その『ヒプマイ』の対抗馬となりそうなキャラクターコンテンツが、“HIPHOPメディアミックスプロジェクト”として昨年に始動した『Paradox Live』です。楽曲やドラマトラックを収録したCDを中心にストーリーが展開し、4チーム総勢14名のラッパーによるステージバトルが繰り広げられる本作。声優のみならず96猫や志麻といった歌い手がキャストとして参加しているのもユニークですが、何より面白いのは、現行のヒップホップやポップスのトレンドを積極的に楽曲に組み込んでいることです。
例えば、個性派揃いの新世代カリスマ3人組ユニット・BAEは、1曲の中に日本語・英語・韓国語のリリックが飛び交う多言語ラップが特徴で、カラフルでポップなトラックも含めてK-POPの色が強く感じられます。大人なメンバーを中心とした孤高の実力派4人組ユニット・The Cat's Whiskersは、生音風のサウンドが軸になっていて、いわゆるジャジーヒップホップ風。スラム出身のダウナー系双子ユニット・cozmezはトラップ系のビートを嗜好し、結束の固いギャング5人組ユニットの悪漢奴等はギャングスタなラップが映えるトラックと、チームごとにサウンドカラーを明確に分けていることが、楽曲を聴けばすぐにわかります。
その『Paradox Live』より、cozmezと悪漢奴等によるステージバトルを収めたCDが、9月2日にリリースされた『Paradox Live Stage Battle "FAMILY"』。要は各チームが“FAMILY”というバトルテーマに沿った新曲を収録しているのですが、どちらもかなり攻めた音作りになっています。まずcozmezの新曲「This Is My Love」は、従来のトラップ路線とは趣きを変え、切なげなギターサウンドをフィーチャーしたエモラップ的な曲調に。cozmezの二人は、双子の兄弟であるお互い以外に身寄りがないなかスラムで生き抜いてきた身で、そんな彼らが哀愁たっぷりに〈いつまでも離れたく無い〉と歌う姿にはグッとくるものがあります。きっとKvi Babaのような世界観が好きな人はハマるはず。
一方の悪漢奴等が歌う「CALL FOR FAMILIEZ -悪漢奴等 is Forever-」は、近年の音楽シーンで人気を集めているアフロポップ〜レゲトン系のゆったりとしたトラックに乗せて、はみ出し者のメンバー5人の血の繋がり以上に濃い絆を表現した一曲。悪漢奴等の楽曲のリリックは、Yuly、Mt'、ES-PLANT、心之助の4人から成るヒップホップグループのWAYZが書いていることが肝のひとつで、そのうちMt'と心之助の2人が作詞したこの曲も、例えば日本語ラップのクラシックであるOZROSAURUS「AREA AREA」のラインを引用したフレーズも忍ばせつつ、同じくグループで活動している彼らだからこその悪漢奴等とのシンクロが生まれています。
■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。