北野創の新譜キュレーション
ワルキューレ、NOW ON AIR、Run Girls, Run!……ポジティブなバイブス届ける女性声優ユニットの新作5選
アニメ・声優ソングの注目新譜を紹介する本連載。今回は「女性声優ユニットによる新作」をテーマに5作品をピックアップしました。2018年12月の記事(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、フランシュシュ……2019年期待の女性声優ユニット5選)も同様のテーマでしたが、その後もアニメ・ゲーム作品に紐づいたユニットを含め、声優の活動の幅はますます広がっており、音楽的にも面白い魅力を持った作品が続々と登場しています。新型コロナウイルスの影響で日常の在り方が大きく変化している今、その活動を通してポジティブなバイブスを届けてくれる彼女たちの音楽に、ぜひ耳を傾けてください。
まずは、2016年放送のTVアニメ『マクロスΔ』から誕生した戦術音楽ユニット、ワルキューレの実に2年ぶりとなる4thシングル『未来はオンナのためにある』を紹介。メンバー5人それぞれの個性が際立つ歌声と複雑なハーモニーをもライブで再現してしまうパフォーマンス力、豪華作家陣が提供した楽曲の素晴らしさによって、2017年夏には日本最大級のロックフェス『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』への出演を果たすなど、作品の枠を越えた人気を獲得している彼女たち。JUNNA(彼女のみ声優ではありません)、鈴木みのり、安野希世乃、東山奈央、西田望見のメンバー全員がソロでも音楽活動を行っていることもあり、今や彼女たちが揃うとスーパーグループ的な存在感があります。
今回のシングルは、同アニメの完全新作となる『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』(公開時期は未定)のイメージソングとして制作されたふたつの新曲「未来はオンナのためにある」「ルンに花咲く恋もある」と、2018年2月に横浜アリーナで2日間にわたって開催された3rdライブ『ワルキューレは裏切らない』のオープニングナンバー「恋! ハレイション THE WAR〜extended version〜」の新ミックスを収録。
80年代歌謡曲の匂いを感じさせる情熱的なメロディが印象的な「未来はオンナのためにある」は、サビの〈だから 女たちよ声をあげよう 叫び続けよう〉などパワフルなラインを満載した歌詞がとにかく強烈な1曲で、アニメの劇中では戦場の最前線でライブを行って「音楽」で戦う彼女たちのキャラクター性を表現するのと同時に、ビヨンセをはじめ近年の海外の女性アーティストの楽曲に多く見られる「女性のエンパワーメント」というテーマ性にもシンクロする内容になっています(ちなみに本楽曲を作詞したのは岩里祐穂)。
もう一方の新曲「ルンに花咲く恋もある」は、TVアニメの前期EDテーマとして好評を博した「ルンがピカッと光ったら」と同じ西 直紀(作詞)×コモリタミノル(作曲・編曲)コンビが手掛けた、同楽曲の続編とも言えるアーバンポップチューン。「ルン」と呼ばれる触覚のような器官を持つ女の子・フレイア役を演じる鈴木みのりを中心とした溌溂なボーカルに加え、SMAP「SHAKE」「ダイナマイト」からDa-iCE「TOKYO MERRY GO ROUND」まで数々の名曲を生み出してきたコモリタらしいキャッチーなメロディラインが耳に残る、聴いているだけで自然と元気になれる1曲です。
続いては、前述の記事(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、フランシュシュ……2019年期待の女性声優ユニット5選)でも紹介した、飯野美紗子、岩淵桃音、片平美那、神戸光歩、鈴木陽斗実、田中有紀による6人組声優ユニット、NOW ON AIRの4thシングル『ゴンドラの唄』。実在した歌人・石川啄木を主人公にした現在放送中のTVアニメ『啄木鳥探偵處』のエンディングテーマとなっている表題曲は、タイトルからもわかるように、〈いのち短し 恋せよ乙女〉というフレーズでも有名な大正時代の流行歌「ゴンドラの唄」のカバーです。黒澤明監督の映画『生きる』(1952年)で劇中歌として歌われ、最近ではNHK朝の連続テレビ小説『マッサン』(2014年)でもフィーチャーされていたので、ご存知の方も多いかと思いますが、NOW ON AIRはこの楽曲を大胆なアレンジで歌唱。イントロから1コーラス分までは、ピアノのみをバックに端正な歌を聴かせますが、そこから一気にドライブ感と溜めの効いたロックンロールなサウンドへと変化。持ち前の美麗なコーラスワークも駆使しつつ、明るく賑やかな歌声で楽しませてくれます。
なお、彼女たちは続いて8月5日に5thシングル『GO! FIGHT! WIN! GO FOR DREAM!』、その後さらにTVアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』第2期エンディングテーマが収録される6thシングル『Proud Days』をリリース予定。今回のシングルのカップリング曲「surely」では、メンバーで音大出身の鈴木陽斗実が作曲を担当するなど、最近では個々の才能をより明確に活動へと落とし込み、以前に紹介したとき以上にユニットとしての進化が感じられるので、ぜひチェックしてください。
そんな彼女たちとほぼ同期で、林 鼓子、森嶋優花、厚木那奈美によって2017年に結成されたRun Girls, Run!(以下、ランガ)は、活動3年目にして待望の1stアルバム『Run Girls, World!』をリリース。TVアニメ『Wake Up, Girls!新章』の劇中歌として歌ったはじまりの歌「カケル×カケル」を皮切りに、フューチャーベースの意匠を纏った「Share the light」などの全シングル表題曲と6曲の新曲を収録した、これまでの活動の軌跡をこれ一枚で辿ることのできる集大成的な1枚となっています。
グループ最年少の現役高校生ながら抜群の歌唱センスでセンターを張る林、かわいさを追求したパフォーマンスで魅せるリーダー・森嶋、バレエの経験を活かした特技のダンスで振り付けなども手がける厚木と、メンバー3人それぞれの個性も魅力的な彼女たちですが、今回のアルバムでは、そのパーソナリティを音楽に昇華した各自のソロ曲も収録。林のソロ曲「りんごの木」はロック好き(特にQueenの大ファンだという)の彼女の好みを反映した、広川恵一(MONACA)提供の爽やかな青春ロックチューンに。森嶋のソロ曲「Darling Darling」は、μ's「きっと青春が聞こえる」、ミルキィホームズ「ナゾ! ナゾ? Happiness!!」などのヒット曲で知られる高田 暁が楽曲提供したアイドルソング風のキュートなナンバー。厚木のソロ曲「逆さまのガウディ」は、ラップパートも備えたダンサブルでお洒落なエレクトロポップに仕上がっています。
さらにアルバムのリードトラック「ランガリング・シンガソング」は、デビュー以来、ランナー(ランガのファンの呼称)たちの期待に応えるべく、たとえ落ち込むことがあっても振り返ることなく全力疾走してきた彼女たちの、夢のゴールに向けた真っ直ぐな思いが胸を打つ、エモーショナルで疾走感溢れるナンバー。ユニットの現在地や未来へのビジョン、メンバーの個性などがアルバム全体にしっかりと刻まれていて、MONACAの作家勢や作詞家の只野菜摘らプロの音楽家たちが主役の魅力をしっかりと引き立てるべくウェルメイドな楽曲を仕立てた、クリエイター主導のポップスとしての粋を極めた力作です。