羊文学が再現した、『若者たちへ』に漂う“青春の残り香” 歴史を辿り、現在地も見えたオンラインツアー2日目

羊文学オンラインツアー2日目レポ

 3人が手を重ね円陣を組む。その距離の近さに妙に安心感を覚える。失われてしまった風景をほんの束の間取り戻すような、そんな安堵だ。まだ生まれたばかりのライブハウス「LIVE HAUS」(リヴハウス)の店内看板には、「君がいつでも帰ってこれるように」というメッセージが記されている。音楽が鳴る場所、文化を繋ぐ場所、誰かの拠り所になる空間、それを守ろうとしているのだろう。羊文学による『online tour “優しさについて”』、その2日目「下北沢LIVE HAUS Playing:1stALBUM『若者たちへ』」を見た。

 

 まずは今回の配信ライブについて、ざっと説明しておこう。羊文学がかねてからホームとしてきた下北沢BASEMENTBAR/THREEと、そこにゆかりのあるライブハウスを回るツアーである。資料によると、ライブハウスに対し何か出来ることはないかと考え行ったのがこのオンラインツアーだったという。そのため会場となった3カ所は、THREE〜BASEMENTBARに勤めていた高木敬介が調布にオープンした系列店の「調布Cross」、THREEの店長を務めていたスガナミユウが開いた「下北沢LIVE HAUS」、そして「下北沢BASEMENTBAR」と、すべてバンドと馴染みの深い場所が選ばれた。配信のプラットフォームも、THREE、BASEMENTBAR、Crossを運営するTOOS CORPORATIONが新しく作った「Qumomee」。監督もそれぞれのハコにゆかりのある人選を意識し、バンドからライブハウスへのリスペクトを感じるライブ(≒映像作品)を作り上げている。未曾有の危機が続くライブハウスへの、羊文学なりの感謝と応援の意を伝えるライブでもあるのだろう。2日目にあたる今回は映画『MOTHER FUCKER』も手掛けた大石規湖が監督を務め、迫力ある映像となっていた。

 このライブの面白さは、これまでリリースしてきた作品を、そのままの曲順で演奏するところにある。初日の調布Cross公演は、1st EP『トンネルを抜けたら』と2nd EP『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』をプレイし、最後に「1999」で閉じるというもので(リリース順ではアルバムの『若者たちへ』を飛ばした格好だが、「1999」は2017年の冬頃に制作していたため、彼女たちの感覚としてはここに収まるという意識があったのかもしれない)、最終日の『きらめき』、『ざわめき』ライブへと繋げる2日目の公演が、今回レポートする『若者たちへ』のライブである。

フクダヒロア(Dr)

 一瞬の静寂の後、ライドシンバルを一発。それからスネアにハイハット。まるで大切なものをそっと撫でるような、繊細な手触りで叩かれるその音こそ、羊文学のチャームである。残酷なくらい優しいそのタッチで、フクダヒロア(Dr)は静けさを演出していく。この頃の羊文学を聴いて改めて悲哀や寂寞を感じるのは、何も塩塚モエカ(Gt /Vo)の詞やギターだけが理由ではない。揺蕩うような淡い色の照明と、フクダが叩くダークシンバルのサステイン……これこそが10代をテーマに書かれた『若者たちへ』に漂う、青春の残り香を再現しているのだ。

 アルバムを再現している本ライブにおいて、1曲単位で語るのは野暮かもしれないが、敢えて前半のハイライトを選ぶならほろ苦い夏の記憶を辿る「夏のよう」だろう。乾いたスネアと、河西ゆりかによる感情的になりすぎないベース、過去から反響するように微かに聴こえてくる彼女のコーラス。そして、その真ん中にある祈るようにも泣いているようにも聴こえる塩塚モエカのボーカル……遠くを見つめるような表情も含めて、そのすべてが得も言われぬ美しさを備えているように思う。

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