羊文学が再現した、『若者たちへ』に漂う“青春の残り香” 歴史を辿り、現在地も見えたオンラインツアー2日目

羊文学オンラインツアー2日目レポ

河西ゆりか(Ba)

 このアルバムで表現されている“10代”とは、輝かしい青春の光ではない。思春期特有の痛みと迷いの記憶である。今思い出しても「Step」のMVを岩井俊二が監修したのは象徴的で、あらかじめこのバンドには影があったのだろう。『きらめき』をリリースして以降、バンドは明確に次のタームへと進んでいったが、このライブではそうした仄暗い感覚が蘇ってくるようだ。

 「Step」を終えると、トイレのハンドソープがイソップだったといういつも通りのほのぼのとしたMCを挟んで後半へ。意図的なものかは定かではないが、再開後も最初の1音はドラムから。疾走感のあるオルタナナンバー「コーリング」で始まり、「涙の行方」を終えると表題「若者たちへ」へ。明滅を繰り返す電球のライトと目一杯弾き倒されるファズギター、一切の感情を飲み込むような轟音。そして歌の最後の一節、〈優しくなれるように〉、この濁流のような音こそ優しさだろう。誰をも拒まず、そして誰をも平等に突き放す。

 やはり“優しさについて”と題された本ライブは、決して突然現れたテーマではないのだろう。恐らく塩塚モエカが日々感じている、人生における重要なファクターなのだ。アンニュイな気分を映すように仄暗かった照明が、最後の「天気予報」では光に変わる。眩いカーテンに包まれるように迎えた幸福なクライマックス。息を飲むように見守っていた「若者たちへ」とは対称的な、解放的なメロディだ。

 時系列順に再現されていくこのツアーは、羊文学の歴史を辿ると共に、彼女達の現在地を見る意味もあるだろう。さらに言うならば、羊文学と今回のライブ制作を経て、相思相愛の関係性になったという大石監督の視点で撮られた映像からバンドの動向を占うヒントも得られるかもしれない。期間内であれば何回もアーカイブで見れるので、純粋に演奏を楽しみながらも、バンドの変遷に思いを巡らせるのも面白いかもしれない。

■黒田隆太朗
編集/ライター。1989年千葉県生まれ。MUSICA勤務を経てフリーランスに転身。
Twitter(@KURODARyutaro)

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