「あんなつぁ」がSNSで話題の5人組バンド、浪漫革命 貪欲な音楽愛が詰まった『ROMANTIC LOVE』を紐解く

浪漫革命、音楽愛が詰まった『ROMANTIC LOVE』

 そして話題の「あんなつぁ」。割とファットな音像で、何より〈あんなつぁ(=あの夏は)〉をリフレインするコーラスが耳に残るのだが、意味を超えて繰り返したくなるこの言葉の中毒性は大きなグルーブを持った演奏の繰り返しや、歌詞を追いかけるように複数でコーラスを重ねてくることで生まれる軽くトランシーな感覚のせいじゃないだろうか。アレンジはスチールギターが海を思わせつつ、基本的にはフォーキーで、サニーデイ・サービスの目眩を起こしそうなサマーラブソングから狂気を差し引いたようなニュアンス。しかしMVのイメージも手伝って、木造アパートの物干し場(ベランダなんてものじゃなく)で目覚めの一服を美味しそうに味わっている彼女の姿を回想する僕は静かにまだ生命を燃やしているーーそんなリアリティもある。一転、ソウルフルなベースラインが牽引する「ラブソング」。ベタになりそうなアメリカンロック風味のオーセンティックな曲調を引き寄せたのは今はもういない人も含めて一緒に生きていくという意思の現れに感じた。

浪漫革命『あんなつぁ』Official MV

 珍しくグランジなファズ踏み込み系のギターが空間を埋める「深夜バス」はなかなかにヘヴィ。東に向かう深夜バスの中で彼女との記憶を辿る主人公のささくれそうな思いと、フィードバックから入るギターソロ。その質感はくるりの「東京」をちょっと思い出させる。続く「アバンチュール」はサーフGS風。The Beach Boysを歌謡曲に昇華していた時代を想起させる前半の能天気さから一転、カオスの色合いを濃くする演奏にエフェクトボイスで語られるのは1930年代、場所はアメリカ西海岸、人種が異なる恋人に起こった悲劇。創作かもしれないが、今につながる問題を盛り込んできたとしか思えない。この辺り、何気にやはりandymoriの影響が伺える。

 モンドなジャズの構造というか、ぶっちゃけフリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」の地メロやギターサウンドを思いっきり想起するのが「Showが始まる」。ここまでリファレンスを自らのパーティソングに換骨奪胎する勇気はむしろ天性。その明るさのままSam & DaveやThe Blues Brothersばりのファンキーな「JUST DO IT」へ。いつまでも子どもじゃいられない年齢に差し掛かり、わがままばかりも言ってられない。でもやるだけやん! とばかりに進む今の5人のタフな姿がまとまらないまま打ち込まれたようなエンディングを迎えるのだ。

 いやもう、あらゆる時代の音楽をアーカイブとして取り出せる世代とか、そういう話じゃない気がする。愛しい人、愛しい音楽、愛しい日常を手繰り寄せて、5人で練って成形したらこんな8曲になりました! と差し出されたようなアルバムだ。バンドで音を鳴らすことの楽しさを爆発させながら、今作でさらに貪欲に音楽愛の触手を伸ばした浪漫革命。必ずしもその背景が完全に消化されていなくても、いや、むしろ原型が見えていたりするところに人懐こさすら覚え、こちらも胸襟を開いてしまう。もっと言えば様々な世代の音楽好きが対話できる場になり得るバンド、それが浪漫革命の面白さだ。

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

浪漫革命『ROMANTIC LOVE』

■リリース情報
浪漫革命『ROMANTIC LOVE』
7月22日(水)発売 ¥2,500(税込)

<収録曲>
1.ふれたくて
2.ラブストーリー
3.あんなつぁ
4.ラブソング
5.深夜バス
6.アバンチュール
7.Showが始まる
8.JUST DO IT

■ライブ情報
『Dance to the Romantic beatツアー』
10月2日(金)名古屋APOLLO BASE
10月16日(金)渋谷チェルシーホテル
11月15日(日)心斎橋ANIMA(ワンマンライブ)

■浪漫革命 関連リンク
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