郷ひろみから学ぶ、“当たり前を続ける”ことの大切さ 著書『黄金の60代』から伝わる一貫した生き方
郷ひろみ、64歳。レコードデビュー48周年を目前に、なお磨きがかかるその歌声と身のこなしは、まるで衰えを知らない。
7月4日に放送された『SONGS』(NHK総合)にて披露した「ノンストップ・メドレー」では、数々のヒット曲を原曲キーのまま、文字通り“ノンストップ”で歌い踊った。エンターテインメントを体現するスター・郷ひろみのパワーに、ただただ圧倒された時間だった。
郷ひろみが与えてくれた“気づき”
郷ひろみが2015年から書き綴ったエッセイをまとめた著書『黄金の60代』。郷が日々考え、行動している“当たり前”を、さらけ出した一冊だ。
本書には、郷が掲げる大前提がある。「人間は、若くない時間を多く生きる」ということ。改めて言葉にされると、ドキっとしてしまう。目を背けたくなる事実だ。
しかし郷は目を背けるどころか、早くからそれを見据えて生きてきた。60代を、自分にとって人生最高の時期、重きを置くべき時期と捉え、ワクワクと準備してきたという。
60歳という節目を「もう60歳」と捉えるのか、「これから最高の時がやってくる」と捉えるのか。郷の言うように、考え方ひとつで、生き方も心構えも変わってくる。
「僕は大器晩成だ、と信じてやってきた」。本文一行目のこの一言に、驕ることなく自身を高め続けてきた「郷ひろみ」の人物像が見えてくる。
郷ひろみであるということ
郷は、本書の「まえがき」にて、自らのパブリックイメージを“ザ・芸能人”だと語っている。そう言い切れる彼の自負なくして、郷ひろみは存在しない。今日も“スター・郷ひろみ”が現役であるのは、郷の研鑽の賜物に他ならない。
そんな郷だが、自身はとりたてて特別なことをやろうと思っているわけではないという。ステージに上がれば自然と郷ひろみとしてのスイッチが入るだけで、意識して切り替えているわけではないらしい。
「普通のことをコツコツやっていれば、人は勝手に特別と判断するのでは、と思うようになった」。この言葉こそ、郷ひろみを象徴している。
郷は、何に対しても「準備」を大切にする人だ。
本書のテーマである「最高の60代を迎える」ための準備はもちろん、完璧な“郷ひろみ”としてステージに立つための準備を、郷はどんなときも怠らない。だから、郷には自信がある。練習と努力によって裏打ちされた確かな自信が、郷ひろみを形成している。
ストイック、努力家……そうした言葉さえ軽く聞こえるほどのプロ意識。それでも郷は「郷ひろみ」として生きる重みと覚悟を、当たり前のこととして受け止め、行動している。
この「当たり前」、そして先述した「コツコツ」という言葉は、本書において、郷にとってのキーワードだ。
「特別なことはしていない、当たり前を続けているだけ」「続けることを、できる人が少ない」。本書を通し、一貫して語られる郷の言葉。
誤解を恐れずに言えば、本人の言う通り、本来の郷は特別でも天才でもないのかもしれない。本書を読めば、意外なほど人間的で、ときに単純で、ユーモラスな郷の素顔が見えてくる。
ただ郷は「当たり前のことを続けることができる」、数少ない人。そして、選ばれたこと、愛されたことに責任を持ち、誠意を持つ人だ。
もっとも、人はそれを非凡だとか、天才だと呼ぶのだが。
信念を持ちつつ、柔軟に変化する
彼は「郷ひろみ」に対して客観的だ。原武裕美(本名)としてではなく、あくまで郷ひろみとして、客観的に自身を見ている。
自身の歌、パフォーマンス、ふるまいのすべてにおいて、良いものは良いと言い切る。それだけの準備をし、徹底的に磨き上げている。ステージに立つにあたって「足りない」「できない」ことを許さない。
筆者は本書を読むまで郷のことを、プライベートにおいてもスーパーマンであり人間離れした存在だと思っていた。はじめから失敗などしない人だと。もちろん、そんなはずはない。
大切なのは、失敗をどう捉えるか。失敗しないようになるまで、諦めずに続けることができるか、だ。
郷にとって失敗はチャンス。恐れることでも、恥ずべきことでもない。「さらに上昇できる」と、ワクワクさえする出来事だ。
信念を持ちながらも柔軟性を持つ。変化を求め、変化を糧に成長する。常に目標を掲げ、ストイックでありながらも、他者の言動を受けとめ、取り入れる。郷ひろみには、心の「余裕」がある。
どっしりと根を張った大木が枝を伸ばし、雨に打たれ光を浴びてさらに大きくなるように、郷がもつ「吸収力」と「柔軟性」が、日々郷ひろみをアップデートさせている。