KANA-BOON、KEYTALK、ヒトリエ……ベスト盤リリースを機に見る「4つ打ち」の変遷

 もともとボカロPとしても活動してきたwowakaが結成したヒトリエは、初期からアレンジが洗練されており、演奏もかなりテクニカルだ。「4つ打ち」はコードというよりリフ主体の組み立てになることが多いが、ヒトリエはその徹底と言える。ツインギターとボーカル、ベースラインが奏でるリフの絡み合いや変幻自在のドラムに惹き込まれる。そうした手数の多い演奏のなかで「4つ打ち」のあのリズムが登場すると独特のカタルシスがある。

 変化を感じるのは、wowakaのボーカルだろう。早口で、かつところどころ裏声にしゃくりあげるような忙しない歌メロがどんどん自由闊達に動き回るようになっていく。単にスキルが上がったというだけではなく、繊細なダイナミクスの変化にあわせたボーカリゼーションによってアレンジの緩急も豊かになっていく。ミニアルバム『ai/SOlate』やアルバム『HOWLS』での、エレクトロニクスを採り入れつつも抑制されたエレガントなアレンジは、こうしたボーカルが成立させていた部分が大きそうだ。

『ai/SOlate』
『HOWLS』

 wowakaが惜しくも2019年に急逝してしまったことは、重ね重ね惜しい。

 2000年代に「4つ打ち」が成立した背景については拙著『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)でも一章ぶんを割いて検討したが、(あくまで肌感覚として)読者から反応が多かったのがまさにこのトピックだった。そこでは、「4つ打ち」とざっくりくくられる音楽性をさまざまなジャンル(特にダンスミュージックとロック)が合流する場として捉えなおすことを試みた。

 仮にそうしたジャンルベンディングな可能性を「4つ打ち」の本領とするなら、3つのバンドそれぞれに魅力あふれるバンドであるというのは前提としても、個人的にはヒトリエの軌跡がもっとも興味深い。ベスト盤のリリースからツアーを経て、彼らがどのように活動していくか、注視したい。

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

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