Arca、Yves Tumor、J.A.K.A.M.、DJ KRUSH……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜9選
・Arca「@@@@@」
・Yves Tumor『Heaven To A Tortured Mind』
・Caribou『Suddenly』
・Steve Spacek『Houses』
・Aril Brikha『Dance of a Trillion Stars』
・Huerta『Junipero』
・Wehbba『Straight Lines & Sharp Corners』
・J.A.K.A.M.『ASTRAL DUB WORX』
・DJ KRUSH『Trickstar』
2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜から主だったものをご紹介します。
アルカの新曲「@@@@@」(XL Recordings/Beat)。曲といっても62分を超える異例の大作です。詳しい作品のコンセプトや本人のコメントなどはレーベル公式サイトをご覧いただきたいですが、タイトルからもわかる通り、デビューミックステープ『&&&&&』の続編もしくは姉妹作という意味合いがあるようで、それは「変形していく音の量子で構成される音楽的量子」という点で共通項があるのだそうです。
60分超の長さといってもプログレッシブやクラシックのようにストーリー的、ドラマ的に構成されたものというよりも、無数の膨大なイメージや音の粒子が拡散・収縮を繰り返すような不吉で煌びやかな世界。この鬼才の底知れぬ異能を知るには十分でしょう。ディストピアの終末処理場のようなアートワークやMVの世界観も強烈の一言。今春最大の問題作と言えるでしょう。
前作『Safe In The Hands Of Love』で世界中の注目を集めた怪人イヴ・トゥモアの1年7カ月ぶりの新作『Heaven To A Tortured Mind』(Warp/Beat、4月3日発売)。へヴィンでノイジーなエレクトロニックミュージック、スピリチュアルな実験音楽、あるいはオルタナティヴで奇矯なR&B~ファンクとして極めて独創的な音楽を作り上げてきた鬼才は、本作ではかつてなくボーカルを前面に出した歌ものに挑戦しており、アレンジやサウンドプロダクションもオーソドックスでファンク/ロック的な作りになっています。とはいえ歌自体は個性もスキルも声量も不足していて、たとえばサーペントウィズフィートのようなシンガーソングライターと比べても、プロデューサー、トラックメイカーとしてのイヴ・トゥモアの振る舞いが勝った作品と言えるでしょう。しかしドラァグクイーンに通じるような猥雑で異形のトリックスターとしての存在感は相変わらず強烈で、乱調でグロテスクで危険ですが、狂おしいまでに美しく幻惑的な世界は抗うことのできない魅力を放っています。収録曲「Gospel For A New Century」のMVは必見。レーベル公式サイトはこちら。
カナダのDJ/プロデューサーであるダン・スナイスによるプロジェクト、カリブー(Caribou)の新作『Suddenly』(City Slang/PLANCHA)。マニトバ、ダフニといった名義でも出していますが、カリブー名義では5年ぶり。数学の博士号を持つというダンの作る音楽は、自由で実験的であり、クールで端正で知的な一面を持っていますが、本作は彼は生身の人間が作る温かみや柔軟性、優しさといったものを感じさせる作品です。繊細なボーカルを前面に打ち出し、単なるトラックメイカーや電子音楽家ではなく、優れたシンガーソングライターの内省的で思索的な、あるいはポップでエモーショナルな歌ものとして、秀逸な傑作と言えるでしょう。レーベル公式サイトはこちら。