Burial、Squarepusher、田中フミヤ、DÉ DÉ MOUSE……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜11選
・Burial『Tunes 2011-2019』
・Squarepusher『Be Up A Hello』
・Oval『Scis』
・Christian Piers『Virus』
・Quirke『Steal A Golden Hail』
・Konduku『White Heron』
・Audio Werner『On A Different Note』
・Karim Sahraoui『Faith』
・田中フミヤ『Right Moment』
・DÉ DÉ MOUSE『Nulife』
・Serph『Nanotech Wizard』
ここではお久しぶりです。前回は2019年のベストアルバム原稿(小野島大が選ぶ、2019年エレクトロニック年間ベスト10 ナカコーや長谷川白紙ら日本人の良作も多数)だったので、新譜紹介記事としては4カ月ぶりです。それでも紹介しきれてない優秀作品はたくさんありますが悪しからずご了承ください。いつも通りエレクトロニックな新譜から紹介していきます。
2000年代以降のヨーロッパのエレクトロニックミュージックでもっとも大きな影響力をもったひとりが、英ロンドン出身のブリアル(Burial)でしょう。デビューアルバム『Burial』(2006年)、2ndアルバム『Untrue』(2007年)で、世界中に衝撃を与えたダブステップの鬼才は、その後は1枚たりともオリジナルアルバムをリリースしていません。しかしその間にシングル、EPなどで作品を出し続けており、それをCD2枚にまとめたコンピレーションが先日発表された『Tunes 2011-2019』(Hyperdub / Beat)です。2011年以降に彼が発表した音源17曲を、ほぼ年代を逆に辿る形でCD枚組に収録するというやや変則的な編集盤ですが、それだけに彼がダブステップ、UKガラージからダウンテンポ〜ダークアンビエント〜ドローン音響への変遷した末に達した高み(あるいは深み)の凄まじさが体感できる超弩級のアルバムです。最新曲「State Forest」のディープなアンビエント音響の美しくも狂おしい境地です。間違いなく現代最高峰の電子音響アート。必聴です。
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そしてこちらも現代最高の電子音楽マエストロ、スクエアプッシャー(Squarepusher)の5年ぶり新作が『Be Up A Hello』(Warp / Beat)。一昨年に急死したという彼の親友へのトリビュートアルバムということで、彼と共に音楽制作に励んでいた90年代前半に使っていたアナログ機材を多用した作品となっています。しかしそんなエモーショナルでパーソナルな動機であっても、音楽の中身はいかにもスクエアプッシャーらしい、強烈な刺激と実験精神に満ちあふれ、先の展開の予測の付かないスピーディーでクレイジーな音楽となっているのが痛快のひとこと。常識や定型や過去にとらわわれず、バランス感覚も考えず、好きなことを好き放題にやって、それでいてどこかポップでユーモラスで人懐っこい音楽になっている。得がたい才能と痛感します。4月に予定されている来日公演も楽しみ。
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ドイツの電子音楽家オヴァル(Oval)の約3年ぶり新作が『Scis』(Thrill Jockey / Headz)。前作『popp』が彼の自主レーベル<Uovooo>からの発売だったので、<Thrill Jockey>からは10年ぶりのリリースです。内容は前作の成果を踏まえたポップでカラフルで人懐っこいエレクトロニカ。理論が先行するような実験音楽家という印象があるオヴァルも、今作は彼らしい入り組んだレイヤーを持った知的な音楽でありながらも、エモーショナルでキャッチーで、とても新鮮でオーガニックで表情豊かな作品となっています。日本盤CDのみ、姉妹編となるEP『The Eksploio』全曲を追加収録した15曲入り。
2018年、<Ninja Tune>から素晴らしいデビューアルバム『Nothing Is Still』を出した鬼才レオン・ヴァインホールとLaszlo Dancehallというユニットをやっている英国の電子音楽家クリスチャン・ピアーズ(Christian Piers)の1stアルバムが『Virus』(17 Steps)。2013年ぐらいから質の高いトラックを発表し続けてきた彼の集大成とも言える作品で、ダークでノイジーで荒々しいテック〜ミニマル〜ベース〜ダブテクノをディープに展開しています。その妥協のない激烈なブレイクビーツは、まさしくアンダーグラウンドテクノの醍醐味です。大音量での再生を推薦。