Arca、Yves Tumor、J.A.K.A.M.、DJ KRUSH……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜9選
ブラジル出身のDJ/プロデューサー・Wehbba(ウェウバ)の3枚目のアルバム『Straight Lines & Sharp Corners』は、スウェーデンのベテラン、アダム・ベイヤーが主宰するレーベル<Drumcode>からのリリース。世界最大規模のテクノレーベルである<Drumcode>でも滅多に出さないアルバム、それもバイナル3枚組という大作ですから期待の大きさがわかると思います。ドラマティックに盛り上がるファンキーミニマルテクノで、巨大フェスで何千人もの人々が踊り狂うさまがまざまざと浮かんでくるような、大バコ向けのアゲアゲのトラックがたっぷり詰め込まれています。近頃テクノらしいテクノアルバムがすっかり少なくなったとお嘆きのあなた、ぜひ。
最後に日本人クリエイターの作品を。JUZU a.k.a. MOOCHYのJ.A.K.A.M.名義としては初のアルバムが『ASTRAL DUB WORX』(Crosspoint)が圧倒的に素晴らしい。民俗音楽、ベース、ヒップホップ、ダブ、レゲエ、ハウス、エレクトロニカなどジャンルを越境しながらも、一本貫かれた強靱なグルーヴが腰にくる新時代のワールドミュージックです。その力強い無国籍サウンドは奥深く広がりがあり、かつ美しい。イスラエル、ベルリン、フランスなどのレーベルからリリースされた作品も含まれ、世界各国から多彩かつ幅広いゲストミュージシャンが参加していますが、全曲に施された内田直之のダブワイズによって、そのサウンドは強力に統一され、確固たる骨太の世界観を確立しています。一聴してすぐわかる、聴き応え十分の大傑作。気が早いですが、年末の各メディアのベストアルバムの1枚に選ばれるんじゃないでしょうか。レーベル公式サイトはこちら。
そして日本が誇るビートミュージックのレジェンド、DJ KRUSHの新作『TRICKSTER』(Es・U・Es Corporation/3月18日発売)。前々作、前作と、若手のMCやDJ KRUSH作品ではおなじみの音楽家が多数ゲスト参加していたのに対して、本作はDJ KRUSHがたったひとりで作り上げた文字通りのソロアルバムです。ひたすら自己の内面に向き合い、厳しくそのビートを研ぎ澄ませていった至高の境地。ダークでディープでくぐもったアブストラクトヒップホップですが、言葉のない分、聴き手を深い思念の世界に導きます。
■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter