Coldplay、『Everyday Life』で何を表現した? 壮大かつ多角的な音楽性で描かれる人々の日常

Coldplay『Everyday Life』で描かれる人々の日常

 後半の「Sunset」にあたるパートは、アコースティックな音を主体にした9曲目「Guns」ではじまり、シリアの首都ダマスカスでの爆撃事件をテーマにしながらも、現在のColdplayらしいポップアンセムに仕上げた2曲目「Orphans」や、アメリカのビンテージ感溢れるソウルミュージックの影響下にある「Cry Cry Cry」など、ここでも様々な国や地域の音楽を横断。また、この後半パートにも、ラフなアコースティック演奏を生かした「Old Friends」などが挿入されている。

 とはいえ、「Sunset」において作品のテーマに大きくかかわる楽曲は、終盤の3曲。「Bani Adam」と「Champion Of The World」、そして「Everyday Life」だ。「Bani Adam」は、イランの詩人サーディ・シラジの詩にインスパイアされた楽曲。この詩は英語圏では「Children Of Adam(アダムの子供たち)」として知られており、世界中の人はすべて繋がっていることや、相手の気持ちを想像することの大切さが説かれている。そしてアルバムは、ライブの風景も想像できる力強いアンセム「Champion Of The World」を経て、タイトル曲でもある「Everyday Life」で、「Hallelujah」とすべての人々の普通の1日を称えながら幕を閉じる。

 全編を通して印象的なのは、これまでの作品から考えると見違えるほど、様々な言語、音楽性、思考の断片などが意識的に盛り込まれていること。また、途中に挿入される心音や鳥のさえずりといった音によって全体の統一感が演出されているものの、音楽的に何かひとつのアイデアが作品を貫いているようには感じられず、むしろ「音楽性をひとつに統一しない」ことこそが、今回の作品の音楽面での重要なテーマになっているように思える。

 録音の質感も同様で、プロダクションをつくりこんだ楽曲と、ライブ録音のようにラフな楽曲との両方が「Sunrise」「Sunset」ともに混在していて、それが世界各地の様々な人々の日常/生活を連想させる効果を生んでいる。それぞれに違う人々の日常を、考えうる限りの言語、音楽性などで多角的に表現することで、「自分以外の誰かのことを想像しよう」というアルバムにまつわる大きなテーマが、壮大なスケールで作品に詰め込まれている。

 現在のColdplayのファンベースがポップシーンの広範囲にわたっていることを考えると、『Everyday Life』はかなり野心的な作品であり、もしかしたらリスナーの間でも賛否が分かれるアルバムになるかもしれない。とはいえ、現在の音楽シーンにおいてここまで壮大なコンセプトを掲げられるバンドは彼ら以外にそういないし、作品から伝わるバンド像やメッセージは、不思議と結成当初から一貫して変わっていない。リリース日の11月22日にヨルダンのアンマンから中継される配信ライブでは、1部と2部に分ける形で、この作品の全曲が演奏されるという。このライブもまた、作品を紐解く重要なカギになるはずだ。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

Coldplay『Everyday Life』

■リリース情報
『Everyday Life』
発売:2019年11月22日(金)
価格:¥2,700(税抜)
CD購入/ダウンロード/ストリーミングはこちら

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