Coldplay、『Everyday Life』で何を表現した? 壮大かつ多角的な音楽性で描かれる人々の日常

Coldplay『Everyday Life』で描かれる人々の日常

 Coldplayが通算8枚目となる最新アルバム『Everyday Life』を完成させた。音源のセキュリティが厳しいため、この原稿を書いている時点ではまだ一度試聴したのみで、クレジットも一部のみ分かる状態ではあるものの、これまでの作品との違いや、本作ならではの魅力についてわかるところをまとめていきたい。

 現在のスタジアムバンドのイメージからは想像できない人もいるかもしれないが、デビュー当初のColdplayは「UK叙情派」と呼ばれる90年代末~00年代初頭に登場したUKバンドの一組として捉えられていた。デビュー作『Parachutes』(2000年)は、ギターやピアノを中心としたシンプルなアレンジが詰まった、その時期の彼らの姿を伝える作品。最初の変化が訪れたのは、2作目『A Rush of Blood to the Head』(2002年)だった。この作品ではジョニー・バックランドの音響的なギターを筆頭に、バンドの演奏が立体的になり、ダイナミズムが一気に増大。そして3作目『X&Y』(2005年)では、スタジアムバンドの王道を突き進む作風を手に入れた。

 ここまでを第一章とすると、作品によりコンセプチュアルな実験性を加えた『Viva la Vida or Death and All His Friends』(2008年)は、プロデューサーにブライアン・イーノや、その後の各作品でプロデューサーを務めることになるマーカス・ドラヴス、ジョン・ホプキンス、リック・シンプソンらを多数迎えたバンドの第二章の幕開けだったと言えるかもしれない。以降は作品ごとに様々な音楽性を取り入れ、『Mylo Xyloto』(2011年)ではEDMの盛り上がりも視野に入れながら、彼ら史上最もポップでエレクトロニックなサウンドをギターロックのフォーマットで表現。次作『Ghost Stories』(2014年)では『Mylo Xyloto』の制作段階で一度目指していたという、アコースティックサウンドやエレクトロニカを基調にした静謐な作品を完成させた。そして前作『A Head Full Of Dreams』(2015年)では、エレクトロニックな音とギターサウンドをスタジアムバンドとしての巨大なスケール感で融合させた、近年のバンドにとっての集大成的なサウンドを作品に詰め込んでいる。

 今回の『Everyday Life』は、その後行なったキャリア最大のワールドツアーを通して、バンドが改めて様々な土地で暮らす人々と出会ったことがアイデアになっている。この作品ではアルバムの前半にあたる1~8曲目を「Sunrise」、後半にあたる9~16曲目を「Sunset」に分け、紛争や対立といった社会問題も具体的に登場させながら、全編を通して世界の様々な人々の1日を描写。2017年の東京ドーム公演を観た人なら、オープニングでそれまでツアーを回った世界各地の観客の映像が挿入されたあの光景を思い出す人も多いことだろう。

 「Sunrise」パートの1曲目となる「Sunrise」は、ストリングスを使った壮大なオープニング曲。続く2曲目「Church」にはマルチ奏者のジェイコブ・コリアーが参加。また、クレジットとしてアムジャド・サブリの名前も確認できるが、この人物は2016年にパキスタン南部のカラチで銃撃されて亡くなった同国の宗教音楽=カワリの音楽家。宗教的にはイスラム神秘主義者=スーフィーとしてイスラム教厳格派の武装勢力タリバンらと対立する立場であったため、襲撃はテロの可能性も示唆されている。また、楽曲の終盤には、「Orphans」にもコーラスで参加したNorah Shaqur(パレスチナのバンド、Apo & the Apostlesの作品にも参加していた女性)と思しき女性ボーカルが加えられている。欧米のシンガーとはまた異なる独特の節回しや歌声が、ミステリアスな雰囲気を生んでいる。

Coldplay - Orphans (Official Video)

 以降もぐにゃりと音階を滑るようなシンセや途中に挿入される会話の断片が印象的な「Trouble In Town」、アメリカのゴスペルやソウルを髣髴させる「BrokEn」、父と子の距離を描いた「Daddy」、ラフなギターの弾き語り的な「Wonder Of The World / Power Of The People」などが続き、「Arabesque」ではフェミ・クティやベルギーのストロマエらを迎え、英語とフランス語による歌を経て「Music is The Weapon Of The Future」というフェラ・クティの引用を挿入。教会の讃美歌のような音にスペイン語と思しき語りを加えた「When I Need A Friend」で「Sunrise」の幕を閉じる。ここまででも、本作ではいつになく直接的に社会問題をテーマにし、それを各地のミュージシャンと表現していることが分かる。

 ちなみに、視聴した音源では「Sunrise」のラスト曲にあたる8曲目「When I Need A Friend」と、「Sunset」のはじまりとなる9曲目「Guns」の間に、通して読むと「GOD=LOVE」になる鐘の音を使った短いトラックの連なり「G」「O」「D」「=」「L」「O」「V」「E」が挿入されていて、前半/後半パートを分けるインタールードの役目を果たしている。バンドが公式発表しているトラックリストとは異なるため、最終的には8~9曲目のどちらかに統合されているのだと思うが、アルバムに向けての街頭ポスターの掲示やファンに宛てた手紙の送付にも通じるバンドからのユーモア/遊び心のひとつと感じたため記載しておきたい。

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